元皇子よ、戻ってこい
浜辺付近に向かい、茂みから様子を伺った。
海の向こうにはドヴォルザーク帝国の『戦艦』がこちらを
小さなボートが接近しているのが見て取れた。その中に二人の姿があった。ヨハネスでは……ないな。
ひとまず俺は、スコル達に待機命令。俺ひとりで浜辺へ向かう事にした。
「いいか、絶対に動くなよ」
「で、ですけど……」
「大丈夫だよ、スコル。向こうも直ぐに攻撃を仕掛ける気はないらしい。でも、いざとなったら逃げるんだぞ」
「……いいえ、わたしはラスティさんと最後まで運命を共にします」
そこまで言ってくれるとは――ならば、必ず守る。
――俺はひとりで浜辺に出た。
海から浜辺にボートが到着。
下船する二人の人物。
金の髪を爽やかに
「ラスティ! 我が弟よ、こんな湿気た無人島にいたとはな!」
「第一皇子・ワーグナー」
「昔のように兄貴と呼べよ、ラスティ。俺達は兄弟じゃないか」
ニヤッと口元を吊り上げ、ワーグナーはその青い瞳で俺を見つめる。
「なにが兄貴だ! 親父は俺を追放したんだぞ。今更帰れって言いだすんじゃないだろうな! お断りだ!」
「ああ、戻ってこい。お前がドヴォルザーク帝国に必要だ。この通り、頼むから
俺が帝国に必要?
大人しく帰れ?
ふざけんなッ!!
どの口が言うんだ。俺はずっと住んでいた故郷を追い出され、何かもを失ってこの無人島に流れ着いたんだ。必死に足掻いて、ようやく新しい生活を手に入れた。第二の人生と言っても過言ではない。
俺にとって今が大切なんだよ。
「ワーグナー、お前こそ黙って帰れ。親父にこう伝えろ、クソくらえとな!」
しかし、ワーグナーは冷徹に笑うだけだった。ああ、コイツは昔からそうだよな。スコルをボコボコにしていた時もそうだった。平民を見下し、ただの奴隷としか思っていない。血も涙もないヤツなんだ。
人間としての感情が欠如している悪魔だ。
「そんな戯言は自分の口で伝えろ。俺の目的はただひとつ、お前を凍らせてでも連れ帰る事だ。手を出すなよ、副団長」
そういえば、ワーグナーの隣にはローブを深く被る人物がいた。顔が見えないから、男か女か分からん。そうか、あれが副団長か。
ローブの人物は静かに頷く。
そして、ワーグナーはひとりで俺の方へ。こいつ、戦う気か……!
「やる気か、ワーグナー!」
「ラスティ、お前は聖騎士のヨハネスを何度も撃退したそうだな。これは、ドヴォルザーク帝国に対する敵対行為と見なされてもおかしくはない。大義名分はこちらにあるわけだ」
「知るかよ。そっちこそ侵略者じゃないか。勝手に島にズカズカ入って来やがって」
「この島は、ドヴォルザーク帝国の領地だ。ただ無人島で無価値だから放置されていたに過ぎない。だが、見たところ資源が豊富でダンジョンもいくつかあるようだな。そうだろう」
ワーグナーは、副団長に聞いた。
「……おっしゃる通りです、皇子。ここには高難易度の『ランダムダンジョン』が存在します。攻略できれば、あらゆるレアアイテムを入手できましょう。帝国の財政も潤沢になるかと」
静かな女の声だ。
副団長は女なのか。
「それは良い事を聞いた。では、この島を改めて奪うとしよう……! ラスティ、お前から全てを奪ってやる!!」
「ワーグナー、おまえ!!」
許さん。それだけは絶対に許さん。
この島は俺のものだ。
それを奪うというのなら、俺は守るために戦う。
やるしかない。
いや、やらなきゃならないんだ。
俺は、敵意を剥きだしにしてゲイルチュールをワーグナーに向けた。
「ほう、この帝国の第一皇子にして、最強の魔法使いである俺に武器を向けるか、ラスティ。言っておくが、十年前とはワケが違うぞ。あの時は詠唱で油断したが、今は違う。覚悟しろ」
「そうかよ。こっちもあれから随分と成長した。お前だけが特別ではないって事を、この“つるはし”で叩き込んでやるよ」
魔法を使われるよりも先に、俺は先制攻撃を開始した――!
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