特別強化

 浜辺には複数の足跡。海を見渡すと、微かに見える船の形。あの木造船で来たらしい。尻尾しっぽを巻いて逃げたものの、次は『騎士団長』を連れてくると断言していた。


 もしもそうなったら、島の存亡は危ういかもしれない。簡単に攻め入られないようにする為にも、まずは『材料』集めだ。



 再び家へ戻り、リビングへ。

 みんなを集め、緊急会議を開催した。



「――というわけで、さきほどドヴォルザーク帝国の聖騎士がついに俺を見つけにきた。このまま傍観ぼうかんしていても、破滅しかない。なので、防衛力を高める為にも効率よく材料を集めていく事にした」


「はい、ラスティさん!」


 元気よく挙手するスコル。

 二連続で人質になっても、割と元気だった。精神面が気になるが、意外と気にしないタイプなのか――慣れているのか?


「どうした、スコル」

「ちょっと、ハヴァマールさんに質問していいですか」


 と、スコルはハヴァマールの方へ向いた。スライムクッションに身を預ける気怠けだるそうなハヴァマールは、何事かと振り向く。そや、さっき全く出て来なかったな。後で事情聴取しておくか。



「……むぅ、余に質問?」

「はい、ハヴァマールさん。ラスティさんの扱う『ゲイルチュール』のようなモノをわたしにも貰えないでしょうか。そうすれば、材料集めの助けになると思うんんです」


「ふ~む……スコルの提案はもっともだ。だが、『ゲイルチュール』は世界に一本しか存在しない特別な武器。兄上にしか扱えないのだ」


「そんな……」


「落胆するにはまだ早い。要は『材料』を多く集められればいいのだな」



 猫耳をピョコピョコと世話しなく動かすハヴァマールは、俺を見る。



「なんだ、ハヴァマール」

「その、助けに行けなかった事は謝る。でも、余の立場も分かってくれい。何故なら、魔王として世間には認知されているんでな……顔を出すのはまずいのだ」



 そういう理由だったか。

 確かに聖騎士共は、魔王というものを徹底的に嫌っているし、敵視している。ハヴァマールが出て行ったら、殺すまで諦めないだろうな。



「それは分かったよ。それで、材料の件は何とかしてくれるのか?」

「……今までの謝罪の意味も込めて、特別にゲイルチュールを『精錬』する。それで許して欲しい」

「へぇ、ゲイルチュールの精錬ねえ」


「うむ。武器は『精錬』が可能。通常は『ゼタニウム』という鉱石アイテムを使い、鍛冶屋ブラックスミスに依頼して精錬してもらう。だが、失敗してアイテムを消失するリスクもある」


「ま、まて……ゲイルチュールを壊されると困るんだが」

「大丈夫。今回は特別大サービスだ」



 ゲイルチュールを貸せと言われ、俺はビビりながらも差し出した。



「こ、壊すなよ」

「壊さん壊さん。ほれ……カンカンっと」



 いきなり『ゲイルチュール』が金属音を立てた。それも五回も。



「な、何が起きたんだ?」

「ほれ、完成だ。受け取れ、兄上」



 [+5ゲイルチュール]

 [攻撃力:60]

 [効果]

  槍の神が使用していた万能つるはし。通常のつるはしと異なり『耐久値』が存在しない。特定の材料を25~50個ほどいっぺんに入手できる。


  ①木を伐採できる。

  ②石を採集できる。

  ③土を収集できる。


  入手した材料は、自動的にアイテムボックスに保管される。重量をオーバーした場合、つるはしは使用不可能。



 [アイテムボックス重量:5000]



 な、なんですとぉ!?



「すんげぇ強化されてる!!」

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