スコルの秘密

 家へ戻り、スコルを部屋まで送った。

 ベッドへ寝かせると、俺の袖を握る。


「どうした、スコル。俺が恋しいのか」

「……そ、その、これは……そういう意味では」

「じゃあ、なんだ?」


 スコルは押し黙る。何か言いたげな眼差しを向けるけれど、言葉にしてくれないと分からない。俺の方から聞くべきか、悩む。


 そもそも『エルフの国ボロディン』の事もよく分かっていない。なんでスコルはエルフなのに聖女なのか、そして、なぜこの無人島に流れ着いたのか。


 ……いや、今は良い。

 俺は詮索するのが苦手なんだ。



 だが、スコルはゆっくりと語り始めた。



「ラスティさん、覚えていないんですか」

「覚えていない、とは?」


「わたしは、エルフの国ボロディンのエルフですが、聖女。そんな、わたしはドヴォルザーク帝国からお見合いを持ち掛けられたんです」


「へえ、そりゃ初耳だ。相手は、クソ兄貴の第一か第二皇子か」



 そう、どうせ俺なんかじゃない。

 俺は、落ちこぼれの第三皇子。

 しかも他人だったオチ。


 親父はそれを知っていたはずだから、スコルとお見合いなんて……。



「ラスティさんです」


「――――へ」



「だから、ラスティさんなのです」

「う、そ……」

「嘘なんかじゃないですよ。わたしは、第三皇子の方ならと承諾したんです。でも、その前にラスティさんは追放されちゃったので……」


「し、知っていたのか。まさか……俺を追いかけて漂流を?」

「そうです。わたしは、ラスティさん……貴方に会いたかった」



 ……マジぃ!?

 お見合い予定で、それが実現しなかったのに。というか、俺はそんな話すらも聞いていなかったけどな、親父のヤツ、黙っていやがったな。


「けど、会った事もない俺なんかが気になったのか?」

「……その、実は子供の頃に一度だけお会いしているんです」


「俺とスコルが?」


「はい。あれは十年前。エルフの国ボロディンを視察に来た皇帝陛下と皇子様達がユーモレスク宮殿に遊びに来た時です。わたしはそこで、ラスティさんと会っているんですよ」


 十年前……そりゃ覚えていないわけだ。幼少の頃の記憶なんて曖昧だ。だけど、そうか……スコルは覚えていたんだ。



「でも、なんで俺なんだ」

「そ、それはちょっと……わたしの口からは……」


「まさか、子供の頃の俺……将来を約束しちゃったとか」



 その瞬間、スコルは顔を真っ赤にした。これ当たりなヤツだー!! 子供の頃の俺、なに言ってんのー!!


 でもそうか、やっと違和感のようなものが払拭された。出会った時から、あんまり他人な感じがしなかった。直ぐに馴染んだし……ここまで喧嘩せずにやって来れた。ああ、もう、これでは俺がちょっと情けないじゃないか、記憶ないし。



 しかし、こうして無人島まで追ってくれるとか――素直に嬉しい。スコルの想いを無駄にしない為にも、より一層がんばらないとな。



「ラスティさん、わたし……」

「話してくれてありがとう。今は寝てな。また、ゆっくり話そう」

「はい、わたしは頼りになるラスティさんがいれば……それでいいですから」



 微笑むスコルの表情は、俺の心を激しく揺さぶった。……守りたい、この笑顔。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る