流れ着いた執事の男

 小舟が打ちあがって、浜に上がってきた。この無人島に流れ着いてきたのか。俺は、そっと近づき中を確認。


 すると船には人が倒れていた。



「……人だ。スコル、人が倒れている!」

「あっ、本当だ。わたしと同じように流れ着いたんですね」


 そういえば、スコルも漂流してきたんだった。コイツはよく生きていたな。まあ、この辺りの海は穏やかで波もそれほどではないけれど。


 いや、それより。



 うつ伏せに倒れているこの紳士服……いや、執事服を着こんでいる男性。白髪だし、高齢者に思える。――って、まてまて!



「スコル、すまないが大至急でヒールを頼む」

「この人にですか? 分かりました!」


 掌を向け、ヒールを施すスコル。

 倒れている白髪の男性は、これで回復したはずだ。俺はそっと仰向けにしてみると――やっぱりな。



「アルフレッドか」

「アルフレッドさん?」

「ああ、こいつは『ドヴォルザーク帝国』で俺が第三皇子をしていた時の専属世話係。執事のアルフレッドだ」


「そうなのですね。なぜこの無人島に……」



 それは本人に聞けば分かるさ。

 アルフレッドは意識を取り戻し、ゆっくりとまぶたを開けた。むくっと半身を起こすなり、俺を見てダバーと滝のように泣いた。



「……ぼっちゃん! ぼっちゃんではりませんかッ!!」

「ぼっちゃんはよせ。って、抱きつくな、暑苦しい!!」


「おぉやはり、ラスティ様! このような無人島に追放されてしまうなどとは……!」


「本当にな。理不尽すぎて絶望さえしたよ。でも、アルフレッド、どうしてお前は流れ着いたんだ」



 事情を聞くと、アルフレッドは顔を青くして震えていた。



「……ラスティ様。ドヴォルザーク帝国が大変なのです」

「大変?」


「ええ、ラスティ様が消えて間も無く……ドヴォルザーク帝国は経済が急激に衰退。その結果、周辺諸国のグラズノフ共和国、連合国ニールセンも巻き込まれるように恐慌状態に。今や戦争も起こりかねない状況です」



 なんだって……。

 俺が追放されてから、向こうはそんな事になっていたのか。まだこの島に来てから二日、三日だが、どうやら帝国周辺はとんでもない事になっているようだな。



「あ、あのエルフの国ボロディンはどうなっていますか!?」



 慌てた様子のスコルがそうアルフレッドに問い詰める。



「……おぉ、これはお美しいエルフ。貴女様は?」

「そ、そうでした。わたしは『スコル・ズロニツェ』といいます」

「スコル・ズロニツェ……スコル・ズロニツェ!?」


 ぶったまげるアルフレッド。

 なんだ、そんな有名人だったのか。



「あの、どうかしましたか」

「いえ、まさかラスティ様とご一緒だとは思わなかったもので……。残念ながらエルフの国ボロディンの情勢は不明です」


「そんな……」


「ですが、スコル・ズロニツェがいらっしゃるとは。ボロディンは、今頃貴女様をお探しになっている事でしょう」



 そういえば、スコルは聖女だったな。もしかして、結構偉い人なのか。いや、そうなのか……聖女だし。


 まあ、俺を失ってなのか分からんけど、ドヴォルザーク帝国が困っているようで清々した。

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