ROUND 2  先行:オフィーディア


  ROUND 2  先行:オフィーディア


 <裏面カード>がセットされ、最初のBレーンのカードに<クラブの4>が配置された。


 オフィーディアの手札は、<ダイヤの2>と<ダイヤの4>だ。

 左手で手札を持ち、右手で自分の輪郭を撫でながら、オフィーディアは思考をフル回転させていく。


(<ダイヤの2>……やはり、そうね。予想はあっていた)


 練習の時のディトリエの手札。

 そして先のラウンドの答え。


 カードは使い回されている。そしてふつうの紙のカードである。

 この二つから導き出されること……それは、目立たぬ傷を付けてのマーキング。


(そして、それをGMは咎めない。

 つまり絶対的なルールが適応されるのは、結界とゲームの基本ルールのみ……ッ!)


 事前に禁止されていないことは、恐らく禁止されていないのだ。

 だから、GMが咎めることをしないのである。


 そこから導き出される答えは――


(GMは、ゲームを破綻させないイカサマであれば容認する……ッ!)


 どこまでゲームを破綻させない範囲であるかまでは分からない。だが少なくともこのゲームにおいてカードにマーキングすることは、咎められることがないのだろう。


(暴力やテーブルをひっくり返すようなコト……。

 あとは、相手の手札を無理矢理奪い取るとかも、ルール違反が適用されそうですわね……)


 だからこそ、このラウンドは自分が確実に勝てるとオフィーディアは確信している。

 なぜならば、今回の<裏面カード>には目立たないが、オフィーディアが先のターンにつけたマーキングが施されているからだ。


 だが、次のラウンドがひどく不安である。

 自分がここで勝てば、相手の先行からスタートするのだから。


 裏面カードがマーキング済みのモノであれば、その時点でこちらの負けだ。


(ほかに出来るコトはあるでしょうか……?

 自分が勝つだけでなく、次の相手の一手目を潰すような手段……)


 GMが新しい手札を追加する。

 テーブルに伏せられるように現れたそれを手に取り、オフィーディアは思考を続ける。


(新しい手札は<ハートの4>……。

 そうね……恐らく――このくらいは仕掛けないと、ディトリエには勝てないでしょうね)


 まだイカサマに気づけていないかのように、

 カードに何か仕掛けがないのかを探るように、

 オフィーディアはそう振る舞いながら、カードを撫でていく。


 その途中、右手の親指の腹を、右手の人差し指の爪で切り裂く。

 思考するときのクセを右手出ださないように、気をつける。


(<ハートの2>にこの仕掛けを施す必要はない、か。

 すでにお互いにマーキングしているのがバレしまっているのであれば、今から施す仕掛けはあまり意味をもたないのだから……)


 そうして、オフィーディアは右手の人差し指と中指で<ハートの2>を摘むと、それをGMに示す。


「GM。これをレーンCに」

『かしこまりました』


 手の中から<ハートの2>が消えて、盤面に現れる。


「では、わたくしも1/20の確率に賭けてみましょうか」

「おいおい。大丈夫なのか、お嬢様」

「ええ。賭ける価値のあるタイミングですもの」


 優雅に余裕を持って微笑み、そしてオフィーディアは答えを口にする。


「GM。解答しますわ」

『かしこまりました。して答えはいかに?』

「<ハートの3>ではございませんか?」


 僅かな間。

 そして、ぱんぱかぱ~ん! と、どこからともなくファンファーレが聞こえてきて、オフィーディアは胸中で密かにガッツポーズをした。


『正解でございます』


 GMの言葉とともにカードが表向きに変わるのを見て、ディトリエが言う。


「やるじゃん」

「あなたの後追いで真似をせざるを得なかったのはとてもシャクでしてよ」


 ディトリエの賞賛が心からのものなら、オフィーディアの忌々しげな言葉も心からのものだ。


 問題は次だ。


「とてもシャクでしから、わたくしからプレゼントです。

 是非看破してみてくださいませ。できなければ、貴女の負けです」


 だからこそ、しっかりと宣言する。


「へぇ……。そうこなくっちゃ!」


 それを受けて、やる気を出してくれればいい。

 思考を巡らせ続けてくれればいい。


『カードを回収させて頂きます』


 仕掛けは施した。

 これが機能するかどうかはハッキリ言って賭けである。


(でも、分の悪い賭けであっても勝算を見込み、踏み込んでいかなければ……この女には勝てない……ッ!!)


 取り戻さなければならないのだ。大切な婚約者モノを。

 大切な友人たちや、彼女に人生を奪われてしまった人々の日常を。


「さぁ次で決着ですわね」

「あたしのターンからだ。また一発正解で終わっちまっても、文句は言うなよ」

 

 そう。そこだけは完全に運なのだ。

 そこを乗り越えられなければ、次はない。


 故に、オフィーディアはそこだけは乗り越えられるよう、天に祈った。


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