第21話 薬草採取

「みんなに集めてもらいたいのは、こう言う葉っぱだ。近隣で見たことはないかな? 僕の知っている限りでは主にポーションに用いられるんだが」

「知ってはいるが、そんな軟弱なアイテムを作る材料、本当に役に立つのか?」


 僕の呼びかけに意外な返答が返ってくる。


 知っているならば話は早い。それも調薬に精通してるのだろう、僕の遊んでいたゲーム内で薬草と呼ばれていた物を訝しげに見ていた男がいた。


「勿論だとも。確かにこれは一般的には回復薬の材料だが、それはレシピ次第でどうとでもなる。最もポピュラーなのがポーションてだけさ」

「なるほどね、その確信を持った物言い。ただレシピを持ってるだけとも思えない。あんたからは同業者の匂いがするぞ?」

「そうなのか、グルンガ? この人は流れの商人だと言っておったが」


 グルンガと呼ばれた調薬師と思われる男は無言で頷き、アイテム屋の主人が僕を見る。


「先にも言ったろう? 商売柄恨みを買いやすいと。多少の自衛手段は持っているのさ。調薬はその一つ。それと互いに腹の内まで覗かれるのは嫌だろう? 今は協力体制を敷いている。身を守ってもらう意味でも騙すことなんてしないさ」


 僕の解答に納得いかないながらも飲み込む住民の皆さん。

 ウチの若者連中はその言い方だと誤解を招くんじゃないかと言いたげな顔をしている。


 人は完全な善意を信用しきれない。だからこそ僕は保身を最優先で掲げ、相手を納得させた。


 それ以前によそ者を信用しきれない住民達。

 流れてきた僕達だって同じように信用しきれてないので言ってることは何も間違ってない。


 この場を乗り切る為には、納得いかないことも飲み込んで協力体制を敷いていると周囲に認識してもらえればいいんだと僕は言葉を続ける。


「どうだろうか? 協力してくれるかい? 僕達はこの街に来たばかり。土地勘が圧倒的に足りない。むしろこれからそこら辺の情報をこの店の主人に聞こうと足を向けたほどだ。あ、勿論護衛はつけるよ。僕も同行しよう、それとグルンガさんだっけ? あなたにも来てもらいたい。なにせ集めた葉っぱがそれであると判断できる人材が必要だからね」

「それは勿論そうだが、あんたの護衛はまだ若い。どこまで信用していいものか」


 不躾な視線が若者組に注がれる。

 本日集まってくれた男性陣は、それなりに鍛えた肉体を持っている。その中で浮くぐらいのなよなよとした若者達。若いという事はそれだけ実践を積んでいないという指摘を受けた気がした。


「この街での基準は分からないが、旅の道中ですぐ近くにある森で何日か野宿をしていてね。そこで生き残っていられるほどの実力くらいはある。あそこで食べた猪鍋は美味しかったなぁ」


 猪鍋のフレーズを聞き、ギョッとする住民達。

 もしかしてここの住民達にとって触れてはならないNGワードだったりするのだろうか? 


「あんた、あの森に入ったのか?」


 アイテム屋の主人が目の色を変えて声をかけてくる。


「それも先に言ったろう? 宿に泊まる路銀もないと。どうやって乗合馬車に乗るつもりだ。徒歩で来たんだよ、徒歩で」

「なるほどね、それなら心強い。頼りにさせてもらうぞ。名はなんて言う?」


 この集まりのリーダー的存在の店主が、僕達のために場所を開けて紹介の場を設けてくれた。


「僕は流れの商人。みんなからはリトさんと呼ばれている。まあ普通にリトとでも呼んでくれればいい」

「私はマリエ。剣の扱いには多少の心得があります。皆さんに迫る外敵は私にお任せください」

「おぉ、心強い」


 剣を扱えるというだけでこの頼りよう。いや、ここで先ほどの情報が生きてくるのか。森で生き抜いた実力というのが彼女の剣技の質をこれでもかと高める事になっているのかもしれない。


「僕はリョウ。注意を引くことや皆さんの身を守る術に長けてます。よろしくお願いします」

「このリョウはな、こう見えて単独で大猪を仕留めてきた実力を持つ。温和に見えておっかないから怒らせないようにな?」

「ちょっとリトさん、変な誤解を広めないでくださいよ!」


 激昂するリュウを宥めながら、周囲にホラなと呼びかける。だが同意は得られなかった。

 どう見たって僕がけしかけたからだ。一人で注目を集めながら肩を竦める。今のやり取りで、この若者達が僕にきやすい関係であると伝わっただろうか? 


 一応は賃金のやり取りで契約を結んだ護衛とは表向き言ってあるが、それ以上の絆で結ばれていると思ってくれれば儲け物だ。


「そして私がアシュです。立場上はリトさんの弟子として同行してます。未だ薬品には触れさせていただけませんが、やる気だけは十分あります! よろしくお願いします!」


 明日乃には今回猛毒付与の能力を隠してもらった。

 これから作る毒薬に、彼女を関らせない為だ。

 単純な話、彼女の毒は強すぎる為、不意打ちにこそ強いが対策をとられたら終わりなのだ。


 特に集団に対して効果を出す毒は体内に入れてから潜伏期間が長くないと数人が食べてすぐに露見する。強者を討ち取るには有効でも、群を欺くには向かないものだった。


「この子は少し前の街で拾い上げた原石なんだ。まだ少し動きは追っ付かないが、後々偉大な調薬師として世に羽ばたくかもしれない。この名を覚えておいて損はないぞ?」

「ちょっとリトさん、期待が重すぎます」

「と、まあウチのメンバーはこんな感じだ。毎日が騒がしいくらいに面白おかしく過ごしてるよ」


 メンバー紹介で分かるように、偽名は一、二文字変えただけに留める。

 あまりに変えすぎると本人が自分を呼んでいると気づけない時があるからだ。

 もし同一人物だと疑われても似た名前の人がいるんですねとシラを切れるからという理由もある。


 そのあと店主ガルドフを中心に、主要メンバーの名を教えてもらう。

 僕達は人足を連れて魔性の森へと足を運んだ。


 出がけにどこに行くのかと逐一騎士団に突っ掛かれたが、御所望の毒薬の目処がついたのでその素材を集めに行くと言ったら一人のお目付役をつけてお咎め無しとなった。


 用心深いな。いや、そう言って他国に逃げられても困るのだろう。

 王の命に背くことは、この国では死に値する。

 民だけではなく騎士団もそれに縛られている感じか。


 どうもつけられたのは下っ端らしく、僕達の顔を見てもハズレ英雄とは見抜けなかったようだ。

 ケンジは無事に仕事をこなしてくれたようだな。

 まずはそのことに安堵し、薬草拾いに集中する。


「リトさん、目的の葉っぱってこれでいいのかい?」


 少しして、ガルドフが薬草であろう葉っぱを持ってくる。

 ぱっと見、色と形はゲーム内で見たものとそっくりだ。

 しかしそれが薬草だと判断する要素がない。


「少し失礼するよ」


 ガルドフの手から受け取り、背負い袋を通してストレージに入れる。すると……


<マジナイ草を入手しました>


 詳細:マジナイ草

 品質:劣

 調薬>上位ポーションに用いられる素材

 調理>香辛料に用いられる素材


 再び取り出して、新たにストレージから求めている薬草を取り出す。この際見比べる対象は必要だろう。


「どうやら違うようだ。これは僕の知る限りではマジナイ草と呼ばれるものでね。結構な当たりの素材だが、生憎と買い取れる賃金は持ち得てない。今後の為にも是非とも欲しいのだけど今探してるのはこれじゃないんだ」


 マジナイ草と薬草。これらをサンプルケースの中に同梱し、手渡す。その上にガルドフにどちらがどちらであるかわかるようにこの国の言葉で書き込んでもらった。それを素材採取中のみんなの元に送り込んで散策に戻る。


「違う素材でしたか?」

「ああ」


 護衛任務に当たっていたリュウが僕に話しかけてくる。ぱっと見は同じように見える葉っぱどうやって判断したのか気になるらしい。


「それで、どのように判別を?」

「僕の能力はゲーム的でね。ストレージ……この背負い袋に突っ込むと、だいたいどんな素材か名前と詳細が出てくるんだ。どんな風なものになるかまでかは示してくれないが、どの方向性で用いるかの判別にはなるのさ」

「はぁ。ではあれではいけなかった理由は? どちらも同じようなものに見えましたが」

「単純に上等すぎるんだ。同じ成功率だとしても、素材にもグレードがある。僕の欲しい素材のグレードがFとする。安価でそこら辺に転がってるだろう素材だ。けどガルドフの持ってきた素材はAランク。確かに目的のものは作れるだろう。だが同じものを作るとして、どっちを優先的に使うだろうか?」


 リュウがなるほど、と納得しながらこの人貧乏性だなと言う顔で僕を見る。

 ほっとけ。実際に金が潤沢にあるわけじゃないんだから、良いものと悪いものは選別するに決まってるだろう。


 それに今回の狙いはもう一つあるんだ。

 皆が使えないと思っていた薬草で活躍することで、使えないと捨てられたこの街の住民のやる気を出させるという目的だ。

 だから高価な素材を使っては意味がない。


 役立たずでも工夫次第で最大の効果を出せるんだと、今回を機にみんなに教えてやろう。

 そして明日乃。僕が君の毒に頼ったように、僕の毒も素晴らしいものであると教えてやろう。


 まずは素材を集め切ることを優先する。

 リュウを促し、僕たちも素材集めに参加した。

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