第6話 やっとこさ城下町へ(1)

「おぉっ、松子よ。よくぞ戻ったな」

 ニコニコと微笑みながら、王様は私にそう言った。

「はい。無事に帰ってきました」

 私・名川松子は王様の前でひざまき、王様をうやまっているような雰囲気を出した。

「ほっほっほっ。さて、神との対話は可能だったかの??」

 王様が気にしていたところは、やはりそこだろう。どんな能力をもらったのかを知りたいようなので、すぐに実践をしてもいいがいったん待っておこう。

「はい、神より四大属性の力をいただき、その力を駆使くしして山賊らのアジトを壊滅させました。私に負けた彼らは心を入れ替えて、魔の森で畑を耕しております」

「ほぉ!!山賊を倒すとはかなりの力を受け取ったようじゃな。四大属性ということは、火水風土じゃな。お主は、神に愛されておるのかもしれんな」

 そう言って王様はあごに手をつけて、感心していた。

「さて……後は⁇」

 私はその言葉を待っていた。主人公が王様の前で今のように言われたとき、その言葉の意味が分からず答えることができないのだ。

 そこでリクルンやラルフが主人公をかばって、話はうやむやになるのだ。だが、ここにそいつらはいない。王様の攻撃を止める者はいないのだ。しかし、ゲームプレイしていた私は知っている。今、王様が求めていることを。

「……王様。今、あなたは胸の痛みを我慢がまんしていますね⁇」

 私がそう言うと、王様は目をカッと開いて驚いたようだ。私はゆっくりと立ち上がり、王様のそばへと近づいた。

「言わずともわかっています。私がこの場で治してあげましょう」

 そう言って、私は王様の前に立ち、王様に向かって両手を伸ばした。

 最初、主人公はこの能力についてわからなかったが、冒険の途中で気づくのだ。神様からもらったもう一つの力を。それは傷ついた人、病をわずらっている人の身体をいやす力だ。この力のことを『聖女の祈り』と言うのだ。怪我している場所や病を患っているところに手をかざし、手の先に力を込める。すると、手の先からキラキラと光があふれ出し、手をかざされた相手はたちまち怪我や病が治るのだ。

「さぁ!!今こそ真の力を!!!!」


 王の間には、沈黙が流れていた。

「……えい!!……ほい!!」

 手の先に力を込めるが、手からキラキラとした光は出てこないのだ。もしかして、神様は私に四大属性の力を授けても、聖女の力はやらんと言っていたのだろうか。話が短くなったからと言って、これは酷い仕打ちではないだろうか。

 私は恐る恐る王様の方に視線を上げた。

 まるでゴミを見るような目で、王様は私を見ていた。

「なんじゃ、儂をからかっとるのかの⁇」

「……いや、なんて言うか……その……」

 神様の話を聞かなかったとか、暴言を吐いたせいで力を受け取れていないと言ったら、間違いなく処刑される気がするのだ。なんとか言い訳をしたいが、言葉が何も出てこないのだ。

 王様は私をじとーっとした目で見て、大きなため息をついた。

「まぁよい。お主にそこまで期待しておらん。お主はちゃっちゃと魔王を封印するためのクリスタル集めに行ってくるがいい」

 しっしと私に出て行けとジェスチャーをする王様に課長が重なり、怒りが爆発しそうだったが、なんとか暴走しそうな自分を抑えて私は立ち上がった。そして、王様に頭を下げたのだ。

「まぁ、お主に協力する者は城におらんじゃろうから、城下町へ行って騙せるやつを引っかけて旅に出るがよい」

 王様としてそんなセリフを言っていいのか疑問だが、主人公の私に協力をしないなんて有り得ないだろう。なんて言ったって魔王退治、この国の危機なんだから。

 私はムカついているが、顔には出ないよう営業スマイルを頑張った。王様じゃなかったら、山賊と同じ目に遭わせて改心させてやりたい。

 心の内をひた隠しにしたまま、私は王の間を出ようと歩き始めた。

「……あっ!!王様!!金貨袋!!!!金貨袋は!!⁇」

 王の間から出ていく直前に、私は大切なことを思いだしたのだ。扉の前で振り返り、私は金貨袋の行方を聞いた。

「はぁ……それならお主が使用している客間に置いてあるはずじゃ」

「はぁーい!!ありがっとーごっざーっす!!!!」

 その言葉を聞いた私は、満面の笑みで自室へ走っていった。


「ひーふーみーよー……」

 自室に入り、私は金貨袋を探し出したのだ。そして、机の上に広げて枚数を数えているのだ。

「……三十ゴールドか」

 この国の金貨は三種類ある。一番小さい単位がブロンだ。ブロンが三十枚で次の単位であるシルバになる。シルバが二十枚で最高単位のゴールドになるのだ。平民の一ヵ月の食費が十五ブロンだ。武器や防具、お洒落な服を買う場合は一シルバから五シルバくらいかかるのだ。

 つまり、三十ゴールドあれば、お洒落し放題ってことだ。ゲームの主人公が初期で持っている所持金は十シルバだから、それに比べたら私は豪遊しまくれる状態なのだ。

 リクルンは主人公に優しいと言う設定の割には、金にはシビアな男なのだとわかった。だって、王様は私にこんだけのお金をくれるのだから。あんなことを言いながら、こんなにくれるってことはツンデレなのかもしれない。おっさんのツンデレほど需要じゅようはない気がするが、まぁいいだろう。

「ひゃっはー!!課長似でムカつくけど、王様ばんざーい!!!!」

 そう言いながら、私は金貨をポーチに突っ込んだ。このポーチは、本来ならリクルンが魔の森へ向かうときにプレゼントしてくれるのだが、渡されなかったのだ。その代わりなのか、部屋に戻ったら机の上にあったのだ。

 リクルンも、もしかしたら王様と同様のツンデレかもしれない。なんだかんだ言っても、こうやって物をくれるのだから。有難く使わせてもらおう。ポーチを腰につけて、私は椅子いすから立ち上った。

「よっし!!!!お目当ての城下町へ行きますか!!!!」

 そう。私の目的は城下町にあるのだ。そこには私の最推しがいるからだ。彼が登場するタイミングはとてもシビアなのだ。時間に場所、出会いのイベント、すべてにおいて重要だ。一つでも取り逃したら私はショックで王様の髪を丸禿げになるよう愛の力で燃やし尽くしてしまうかもしれない。

 私は急いで、城下町へ向かったのだ。

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