第4話 Highway to the Danger Zone
1
砂塵を巻き上げて、スターライト号は浮かび上がった。
船舶用のエアロックを経て、船は宇宙空間へ出た。
暗闇に溶け込んだ濃紺の船は月面を離れ、地球へと針路を取る。
優雅に地球へ進みだした船の様子とは裏腹に、艦橋では異常を知らせるアラームが鳴り響いていた。
「メインエンジンの出力が80%までしかあがりません」
「なぜだ」
「ジェネレータの不具合です」
「なぜだ」
「さっき取り換えたパーツの通電不良です」
「つまり?」
「あなたは間抜けだということです」
「そうらしい……」
どうやらドルフにポンコツ部品を掴まされたらしかった。
「飛べばよかろう!ガハハッ!」
ルークはそんなふうに笑うドルフを思い浮かべて、次に会ったら奴の全身の毛とドア枠を燃やしてヤキトリを焼いてやろうと思った。
「ジニー、地球まで航行可能か?」
「……演算の結果を報告します。地球に到達するのに問題はありませんが、宇宙軍を振り切って大気圏に突入できるかは疑問です」
地球の衛星軌道上には宇宙軍の艦船が遊弋しており、不法な侵入を阻んでいる。
「宇宙軍については、今回は気にする必要はない。
ルークたち「民間業者」が行う地球降下の多くは言ってみれば政府の監視をかいくぐって行う不法な密猟行為だ。軍に見つかれば撃沈されても文句は言えない。
しかし今回ルークの行う降下はとある資産家の依頼を受けたものである。
不法行為であることに変わりはないが、パトロールにはルークの船を見逃すようお達しが下っているはずだ。
ルークとしては軍の腐敗には眉をひそめないでもなかったが、それはそれとして仕事がしやすくなるほうがいいと割り切っていた。
2
地球に目と鼻の先の距離まで迫った頃、レーダーに反応があった。
「レーダーに艦影。駆逐艦3、巡洋艦1。軍のパトロール隊と思われます」
「勤勉なことだ」
ルークは地球産のインスタントコーヒーをすすりながらモニターで軍艦の接近を確認した。
倒していたシートをもとに戻すと、あらかじめ伝えられていた識別コードを端末に入力した。
これで軍から攻撃を受けることはない。静かに地球へ降りていけばいい。
ルークたちは何も見咎められることなくパトロールをやり過ごした。
ルークがもう一度シートを倒して一休みしようとしたとき、アラーム音が響いた。
「なんだ!?」
「
ジニーの冷たい声が、正体不明の艦船が現れたことを告げた。
その船は軍とは逆方向から接近してきた。
ルークがカメラの最大望遠で確認すると、それは武装した船舶だった。
「軍の所属艦か?」
「以前入手したパトロールの巡回マップを参照しても該当する艦船はありません」
「ならお仲間か」
パトロールとはズレたタイミングで現れた船。
軍の目をかいくぐって地球へ降りようという
軍の識別コードは中々手に入るものではないが、パトロールの巡回マップくらいなら金を積めば楽に手に入る。それほど軍は腐敗していた。
「ジニー、誘導魚雷は何本ある?」
「6本です」
「業者」同士が鉢合わせた場合、戦闘になるというのはままあることだ。
仮に相手を撃沈しても不法行為に及んでいる以上、司法に訴え出られるということはない。
ライバルは少ないほうがいい。
こちらにその気はなくとも用心はする必要がある。
「デコイも準備しておけ」
「了解。1番から3番に魚雷装填、4番にデコイ装填」
ルークの船は元軍の実験艦だけあってある程度の武装は積まれていた。
旧文明の潜水艦に似た見た目のスターライトは艦首に6門、艦尾に4門の魚雷発射管を装備している。
ジニーは艦首の魚雷発射管に誘導魚雷と電波妨害魚雷を装填した。
(全速力が出ないのは痛いな……)
ルークはモニター越しに相手の様子を伺いながら交換部品をよく確認しなかったこと後悔していた。
尻尾を巻いて逃げるという最も有効な手段を今は封じられている。
更には出力に不安を抱えた状態では電磁バリアの展開を十分に行えず、2門あるビーム砲も威力を絞って撃つしかない。
いま満足に使える兵装は自前の推進剤で飛んでくれる魚雷くらいだった。
ルークが不味いコーヒーを飲み干してカップを捨てたとき。再びアラームがけたたましく鳴った。
「ロックオンされました。不明艦を
「いきなり撃ってくるか!」
無法者だらけの「業者」でも警告もなく攻撃を加えてくるのは珍しい。
「デコイ発射、デコイ炸裂後3秒ごとに1番から3番を発射」
「了解……デコイ発射」
艦首からデコイが発射されると数秒後に敵艦の放った魚雷に食いつかれ鋭い閃光が弾けた。
デコイの爆発を確認して、ジニーは命令通り誘導魚雷を発射した。
ルークは横目で敵艦が回避行動に移るのを見ながら汗ばんだ手で操縦桿を握った。
「降下するぞ。電磁バリアを艦首に集中。後部発射管にデコイ装填、敵魚雷の発射を確認したら発射しろ」
「了解」
ルークは艦首を地球へ向けた。
強引な大気圏突入に備えて、バリアを艦首に展開させたとき、強い衝撃が艦橋を揺らした。
「艦首を敵の砲弾がかすめました。
「速力が落ちてて助かったな」
大気圏突入のためバリアを艦首に集中していたこともあって致命傷は免れていた。
艦首以外に砲撃を受けていればルークたちは流星になって地球に降り注いでいたろう。
電磁砲は無誘導であるためデコイで避けることはできないが再装填には時間がかかる。
ルークの眼前にはコバルトブルーの世界が広がっていた。
最早一か八かで落ちていくしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます