第4話 一方その頃の婚約者

「ソオンニは見つかったか?」

 煌めくようなまばゆい金髪を掻き上げ、整った顔の長身の男がため息をついた。

「ええ、王都から少し離れた町に滞在しているようですね」

 答えたのは、やや幼さの残る黒髪の少年。銀縁の眼鏡をかけているが、こちらも整った顔をしている。

「はあああああ……、何だっけソオンニはあんな噂を信じてしまったのか」

 金髪の男の手には、一枚の便箋があった。


 ――ラファエロ様

 ラファエロ様の真実の愛の為に、わたくしは身を引きます。

 どうか、私の代わりにシオンを婚約者にしてお幸せになってくださいませ。

                    ソオンニ


「ツッコミどころしかなくて、どうしていいのか困る」

 王城にある自らの執務室で、愛して止まない婚約者の残した置き手紙を手に、頭を抱える金髪の男はラファエロは、この国の王太子である。

「正直、姉上の思考回路を甘く見てましたね。というわけで、殿下は責任を取って速やかに姉上と婚約を破棄してください。大丈夫です、次の婚約者候補は政治的バランスを考えて、候補はすでに絞ってあります」

「ふざけるな! だいたいソオンニが妙な誤解をして家出をしたのは、お前が原因だろう!! それに、何故私がお前と幸せにならないといけないのだ!!」

 ラファエロが黒髪眼鏡の少年――シオンに怒鳴り散らす。

「いや、まさか僕もこの結果は予定外でしたし、殿下の婚約者なんかになんてなりたくありませんし、真実の愛どころか真実の敵意しかありませんね。いや、ホントどうしてこうなったんでしょうねえ」

 眼鏡をクイッと持ち上げなら、シオンがしれっとした口調で反論した。


 シオンはソオンニの義理の弟で、ラファエロの側近である。

 ティライユール公爵家の一人娘のソオンニが、王太子の婚約者となり、王家に嫁入りする為、親戚から養子としてティライユール公爵家に入ったのがシオンである。

 そしてこのシオンという眼鏡男、重度のシスコンである。血の繋がらない義理の姉が大好き過ぎて、どうにかラファエロと義姉の婚約をぶち壊したくて、暗躍しまくった結果が、義姉の家出と、とんでも誤解である。


「だいたい貴様が、私とソオンニの仲を邪魔しようと、間に割って入りまくったせいで、学園の令嬢達が変な誤解をして、その妄想話で盛り上がりまくったあげく、変な薄い本まで出回って、それをソオンニが信じてしまったのだろう!?」

 感情にまかせてラファルがバーンッと執務机を叩くと、シオンがしれっと反論する。

「いやー、まさか、僕と殿下が恋仲だなんて言われると思ってませんでしたよね? ご腐人方の妄想力を侮ってましたね。更に姉上が、まさかそれを信じてしまうとも思いませんでしたし、王妃教育まで受けているのになんで僕を殿下の婚約者に推すんですかね? 王家は一体どういう王妃教育してるんですか!?」

 眼鏡クイッ。

「シオンは養子だが公爵家の人間だからな、身分的には問題ないな。性別には問題しかないが、ソオンニは閨教育がまだで、子供はキャベツから生まれると思っている。可愛いからそのままにしていた。故に、どうせキャベツから生まれるなら、妃は男でも問題ないと思ったのであろう。無駄に効率重視な彼女の考えそうなことだが、公爵家でどういう教育したら、そこまで思考が斜め上を行くのか、こっちが知りたい」

「ああ、キャベツの件は可愛いので放置しておいても仕方ないですね」

 再び眼鏡を押し上げる。


「ところで、ソオンニは無事なようだが、家出先で何をしているのだ?」

「冒険者をしてるみたいですね。フィーがついているので大丈夫だと思いますが、そろそろ連れ戻した方がよろしいかと。あ、ついでに婚約破棄もしてください」

「ふむ、近隣の住民に迷惑をかける前に迎えに行くとするか。後、婚約は破棄しない」

 カタリと音を立ててラファエロが立ち上がった。

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