第2話  クソAIMお嬢様

「この銃は、わたくしには合わないみたいですわ」

 ソオンニがそう言うと、ソオンニの持っていた銃がパァンと弾けて光の粒となって消えた。

 これが、ソオンニの使う聖なる魔法である。


 ソオンニは数少ない聖属性の魔力の持ち主で、その量も桁外れに多い。そして王家の血筋に連なる公爵家の令嬢だった。

 その為、幼少の頃に決められた婚約者がおり、それはこの国の王太子であった。

 幼少の頃は婚約者の王太子と仲が良かったが、最近ではお互い忙しくすれ違いの日々。 そうしている間に、王太子には真実の愛に目覚め、秘密の恋人と禁断の愛を育んでいるという噂が、ソオンニの通う学園で立ち始めた。


 ソオンニは、読書が好きである。特に巷で流行のロマンス小説が大好きである。

 ソオンニがロマンス小説から仕入れた知識によると、真実の愛に目覚めた身分の高い男性の婚約者は、愛のお邪魔虫で当て馬で悪女である。

 ソオンニは婚約者を愛していたが、愛しているからこそ、自由のない立場の彼には幸せになって欲しかった。幸いその真実の愛の相手を噂される人物は、自分と同じ公爵家の者で身分的にも、政治的にも問題はない。

 よってソオンニは、愛故に身を引く事を決意した。


 婚約を破棄した令嬢は修道院送りが定番で、家名にも傷を付ける事になる為、ソオンニはそっと家を出て冒険者として生きる事にした。

 ソオンニには聖魔法と膨大な魔力がある。その力を使えば冒険者として生活をする事など、造作もない事だった。

 そのはずだった。


 ソオンニは聖魔法で聖なる銃を作り出す"聖銃使い"である。聖銃は攻撃から回復、防御まで、使用者の思いのままの効果を発揮する、当たればめちゃくちゃ強い魔法の銃である。

 ソオンニにはその魔法を、好きなだけ使えるほどの膨大な魔力があった。

 しかし、ソオンニにはその魔法を使うにあたって、一つ大きな欠点があった。


 ソオンニはクソAIMお嬢様だった。


 クソAIM――つまりクソエイム。弾が的に当たらないのだ。

 不思議な事に、ソオンニの銃から撃ち出される弾は、至近距離でも外れてしまう。狙った場所に飛んでいかない。狙っていない場所にはわりとよく当たる。

 銃使いにして、致命的な欠点である。

 幸い聖魔法の弾なので、人間に当たってもちょっと痛いくらいの為、多少の問題はあるがあまり問題はない。


 それでもソオンニは、クソAIMになんかに負けない精神力の持ち主だ。未来の国母になる為の教育に耐えた、ソオンニの精神は強い。

 金に物を言わせた、高貴な者の為のドレスと装飾品を身に纏い、ソオンニは冒険者として魔物に立ち向かう。

 高度な魔法技術により大量の付与を施されたそのドレスは防御力は、薄い布にもかかわらず重厚なプレートアーマーを遙かに凌ぐ。


 フルプレートの騎士を凌ぐ防御力に、当たれば超高火力の銃を持つソオンニは、謂わばドレスを纏った戦車である。

 ただし、その命中率はゼロに等しい。

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