第11話死体撃ちの姫


――毒が体に回ってから十分


 遠くから小さく聞こえるモンスターの唸り声のみが響く広間ルームで、リクはゆっくりと目を開けた。


「……倒したのか」

「うん」


 目を開けるとそこには、グシャリと崩れた岩壁が細道ロードを塞いでいる様と、左肩の傷口を、自分の服で作った簡易包帯で手当てしたミルクの姿があった。

 幸いどこにも【ギフトビー】の姿はなく、ミルクが討伐に成功したことがすぐに分かった。


 勝利。


 その二文字を掲げるには十分な成果であろう。


 ただ一つのことを除けばの話なのだが……。


「おい」

「何?」


 リクが見つめる先は細道ロード唯一・・ある逃げ道である。


「やってんなぁ」

「やっちゃった!」

「クソがッッッ!!」


 零点。


 もうほぼ動けない敵に対して大技を繰り出したかのように、岩石が降り注がれて完全に塞がった細道ロード……。

 

(サイコパスかコイツッ! 死体撃ちしないとすまないタイプのサイコパスかッ!!)


 目の前にいる一番嫌なタイプのサイコパスから反射的に距離をとったリクは、ちゃんと説明しろ! と声を荒らげる。

 それに対しもじもじしたミルクの苦し紛れな言い訳は、とても酷いものだった。


 あのモンスター気持ち悪いんだもん!


 以上――


 実に簡潔的でわかりやすい。

 うん言い訳になってないけどね?

 てへっと、笑い誤魔化そうとするミルクに対し、リクは馬鹿野郎ッ! とおでこに強烈なデコピンをお見舞し、激昂する。


「目潰しもして羽も動かせなくしたのになんでこんなことになってんだよ! 矢打つだけじゃん!!」

「うぅ……そ、そうだけど! なんかその、あれだよあれ! ~~~~ッ!……バカッ! バカバカッ!!」

「子供かッッッ!」


 もじもじしたまま顔を赤くして怒るミルクは、キャラを崩壊させたまま装備している黄金の弓を抱き抱え、口をすぼめて言葉を続ける。


「私の矢は狙ったところに打てないの……だから壁とか天井壊して押しつぶすしか攻撃手段がないのっ! 許してよ! 私だって好きでこんなことしてないもん!」

「は?」


 姫であったミルクが国を追い出された理由――


 神に嫌われた力。


 多属性を操れる代償に命中率が欠如したミルクに、誰もが価値を見出さなかったのだ。

 どれほどまでの力があってもランダムに飛んで行ってしまう矢は暴れ馬そのもの。ミルクが今回ダンジョン送りになった原因もそこにあり、都市外でのクエスト中に放った矢が飛びに飛んだ先が王城だった時は、流石のミルクも現実逃避をはかりたくなったそうな――

 幸い庭が軽く燃えた程度で終わったそうだが、国家転覆罪レベルのため、死罪越えのダンジョン転送になったという訳だ。

 

「お前……なんて言う欠陥商品なんだ…………!」

「うるさい! ふんだっ!」


 つ、使えねぇ! と弓を指さしたリクに対し、ミルクは絶対この弓触らせてあげない! と謎の抵抗を開始する。


「いいわそんな雑魚武器触らなくても! って待てよ? ……火力あるけど命中しないから、壁に当たって派手に崩壊させちゃったってことなら……おいおい、それ下手したら俺に――」

「え! なんでわかったの!?凄いねリクくん!」

「やっかましいわッ!! 危うく俺も死ぬところだったじゃねぇかっ!」

「痛い!」


 何故か目をキラキラさせ始めたミルクに空手チョップを食らわせたリクは、こいつ使えねぇとばかりに深々と嘆息をつく。

 細道ロードが消滅した今、モンスターの侵入は考えられないが、それはリク達も同じこと。実際、ミルクの矢をもう一度使えば破壊できるのかもしれないが、命中率が悪いことを踏まえると、この狭い広間ルームで使うのはあまりにも危険すぎる。

 故に、脱出方法は自ずと賭けへと移行せざる負えない。


「仕方ないか……」


 手で掘り返せるほどの量でも無い岩石を払拭するには、ミルクの力に頼るしかない。いくらグレードアップした魔法だからと言って、あの薄い虫の羽を打ち破るので精一杯な魔法それは、この先ほとんど使う場面は無いだろう。

 己の力不足に唇を噛みつつ、一か八かやるしかないかと心に決めたリクは立ち上がる。


「よし、ここまで来たんだ。何としてでも生き残るぞ! 俺はできる限り離れておくから、後はまかせた!」


 そう言って広間ルームの隅に陣取ろうとするリクに、ミルクは私に任せなさい! と巨大な胸を突き出す。


「素晴らしいっ!」


 美しい揺れに素直に拍手したリクに、今絶対胸見たでしょ! と再び膨れたミルクはえっち……とボソボソいいながらも弓を構えたが、


「いややっぱり、今出来る限りリクくんに教えれることを教えたいんだけど――」

「?」


 無知な冒険者がこの先やっていくことは不可能と決断したミルクは、モンスターが現れる確率が少ない・・・今を使って知識を叩き込むことにした。



 例え自分が居なくなっても生き残れるようにと――


 


 

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