強くなりたい、その想い 2

「鍛えるってテツを?」


「はい」


「俺が?」


「そうです」


 なにを相談されるかと思っていたが、まさかこんな内容だとは。

 テツは十分強い。プレイ自体もそうだし、プレイ時間も並みの人よりもやっている。それこそ、フォージのプロを名乗っていて、それで金を貰っている人よりも。


「それは、チーム練習じゃダメな理由はあるの?」


「実際、俺たちはチーム練習もかなりやっていると思うんです」


「うん。それは間違いないね」


 大会が始まってからは、反省会や対戦相手の研究などに多く時間をかけているため、フォージのプレイ時間は減ったが、それでも、最低8時間以上はやっている。

 恐らくみんな、それ以外にも個人でやっているから、実際はそれ以上ではあるだろうが。


「タイガは圧倒的な対面力と近距離のAIM力。ニシはフリックAIMとスナイパーの精度。2人はそれぞれ誰にも負けない持ち味がある。だけど、俺にはなにも無いんです」


「なるほどね」


 そんなことは無いよ。とは言葉が続かなかった。今のテツは慰めの言葉を欲しているわけではないからだ。自分に自信が持てず、そういった言葉をかけてもらいたい時もある。だけどテツは、本気で自分が強くなるための方法を模索しているのだ。

 確かに、タイガとニシの長所を聞かれたら、パッと答えることが出来る。それは自分の長所を活かせている証拠だ。しかし、テツは? と聞かれると少しつまずいてしまう。なぜなら、テツが一番チームの為に、自分の心を抑圧してくれているからだ。テツが、俺とかタイガのオーダーを聞き入れないことはほとんどない。それどころか、自分の動きを止めてまで、それを遂行することの方が多い。

 それが、長所だが、今の現状それしかないのだ。


 ただ、ニシも最初からスナイパーが上手かったかと言うと、決してそうではなく、役割上、それが伸びていっただけだ。もちろん本人がそれの役割を全うするために努力をした結果なのだが。


「それで、テツは、何を伸ばしたいの?」


「はい。俺の役割的に、前線に出たりタイガの援護だったり、状況によってやることが変ります」


 それも、可愛そうなところではある。テツは、言われたことを即行動に移せるし、なによりも器用なのだ。どんなことをやらせても、だいたい並み以上にこなせてしまう。だから、どうしても俺達3人がやるには、当てはまらないことをやらせてしまっている。それのおかげで、作戦の幅が増えているのだから、決して劣っているわけではない。


「だから、俺のやるべきことは、中距離でのAIM力と空間の把握能力だと思います。それが出来れば、タイガの支援もより出来ると思うんです」


 これを聞いてハッとした。

 普通だったら、タイガのAIM力とか、ニシの頭を抜く緻密なスナイパーなど人の目の集まるようなものを、選ぶと思う。

 だけど、あくまでも自らの役割をきちんと理解していて、チームの為に自分が持つべき力を伸ばそうとしてくれている。


「物凄く客観的見れてるし、チームに必要なものは何かを凄く理解してるね」


 正直にいって、ここまで自己分析を出来ているとは思わなかった。

 やっぱり、トップを争っていたスポーツ選手だけはあるな。


「俺は本気でゲームでやってるんです。本気マジで勝ちたいんです。チームで。この4人で」


 普通なら絶対に楽しくないであろう役割のはずなのに、ここまで身をささげてくれるのか。


「だからヴィクターさんに、お願いしたんです。大会まで後10日間、俺にください!」


「なるほどね。具体的には俺はどうすればいいの?」


「ヴィクターさんの空間認識能力とサポート力は、マジで神だと思っています。それを俺に伝授してほしいんです。後試合中に考えていることとか」


「俺、今回の試合で射線管理が甘くて、ダウンすることが多かったんです。それを見かねて、タイガが俺に指示をくれて。俺が一人で出来れば、そんなことにリソースを割かなくてすんだのに」


 確かに色々考えながらやると、プレイングは圧倒的に落ちる。これは間違いない。だから俺は今AIM力がいらない、オーダに全振りできる盾職を選んでいるのだ。


「だから俺にってことか」


「そうです」


 確かにこの内容だと、タイガでもニシでもなく俺が適任だな。


「よし! じゃあやるか!」


「ありがとうございます!」


 そうなると問題なのは。


「時間はどうする? チーム練習前にやるか後にやるか?」


「そうなんですよね。そこで、もしよかったらなんですけど」


 テツがまた、申し訳無さそうに小さめな声を出す。


「俺がパソコン買う前に毎日行ってたネカフェがあるんですよ。そこの店長が一室貸してくれるって言うんですよ」


「ええーめっちゃいいじゃん」


 一室ってことは区切られた空間だろうから、めちゃくちゃいいパソコンを置いてあるんだろうな。今使っている奴も悪い奴じゃないからけど、最高級ではない。買った時は、ここまで本気でやるなんて思いもしなかったからな。


「ヴィクターさんも来ませんか?」


「え? そこに? でも一台しかなかったら、ちょっと無理じゃない?」


「そこがなんと、3台まで置いてあるんですよ。一応配信ブースって括りになっていて、全部区切られているんですけど、アドバイスとかしてもらいやすいかなと思って。


「ああー、なるほどね」


 自分の練習やチーム練習に支障はきたさない感じか。それならありかな?


「駅近なんで、ビジネスホテルもありますし、オフラインの練習にもなりますし」


 ここまで用意されていて、断る理由は無いな。


「確かにね。それはいいかも。じゃあそうするか」


「マジっすか!? いやー、ありがとうございます!」


「いやいや、大丈夫だよ。本気さが伝わったよ」


「いつ向かえばいいのかな?」


 ネットカフェって何日くらい借りられるんだ? それに、泊まるとなればどれほど金がかかるんだろうか? ビジネスホテルだと一泊5千円くらいかな?

 まあ、大会優勝すれば全然チャラになるし、まだ働いていた時の貯金もあるしな。金の問題で、勝利への努力を怠るようなことはしたくないし。


「準決勝、決勝の前のりが2日前からで、一度家に帰ってからと考えると……。明日からの4日間お願いします!」


「分かった、いいよ! そうしようか!」


「本当にありがとうございます! 場所はチャットに送っておきます」


 明日出かけるための準備をしないとだな。さっきまであったワクワクがさらに倍増したような気がする。






















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