キミと僕のミラクルスター
まきむら 唯人
第1話 はじまり
僕はいつも目立たない存在で。
のんびりしていたら、いつの間にか一人ぽっちになっていたんだ。
見てもらいたくていっぱいアピールしても、今更で。
ラッキーも僕には降って来なくって、周りの友達は次々にいなくなってた。
来る日も来る日も外を眺めているだけの毎日。
留守番。居残り。耳にした『売れ残り』って言葉。
するとある日、キミが現われたんだ。
例えるならそう、キミは僕のミラクルスター。
世は摩訶不思議時代。
街中は一見いつもと変わらぬ風景を見せている。だが違うのだ。
太陽が落ち、夜の闇が辺りを支配する時刻。それは静かに現れる。
人々の、そして人によって飼われていたペット達の心の叫びが具現化した怪人。
いつのまにかそれらを人々はこう呼ぶようになった。
『未確定物体X』と。
「うう……。ほんともう、どうしたらいいんだよ」
藍色の空に星が瞬く頃。
俺、
目的もなく、だ。
胸元のベストのポッケに入っていた小動物が見上げているのを見つけ、さらに俺はふるふると唇を震わせてしまう。
『むーたん』と名付けた、ゴールデンハムスター。ミルクティー色の天使はもう可愛らしく愛らしいモフモフ柔らかなこの温もりがたまらん!
「ハッ! あ、いや何でもないんだ。はは」
むーたんは小さな鼻をヒクつかせながら俺を見つめている。こぼれんばかりの無垢な瞳は、俺の心を慰めもするし、悲哀に誘いもする。
「はい、お腹空いたの? 最後のヒマワリの種だから大事にかじるんだよ?」
なんて言いつつ、あと一袋はあるんだけどね。
こう言っておかないと、むーたんはあっという間に平らげちゃう食いしん坊だからなぁ。そこもまた可愛いんだけど。
ズレた黒縁眼鏡を直し、溜息一つ。
何とはなしに目についた公園のベンチに俺は腰を下ろした。
と、俺がそんな気持ちになっているのは、俺の店『モフーズ』の経営難のせいだった。
小動物のふれあいカフェなのだが、ご近所に出来た猫カフェにお客を持って行かれ、あれよあれよと赤字が続き、ついに今日店舗を借りている大家さんに『流石にもう待てないねぇ。来月までに今までの滞納分払わないと立ち退いてもらうよ!』と釘を刺されてしまったのだった。
家賃は二か月滞納中だ。
常駐スタッフ(と呼んでいる我が店『モフーズ』の愛くるしい動物達)のご飯代は何とか貯金で賄っている状態だが、それもいつ尽きるか判らない。
――そりゃ猫さんも可愛い。でもうちの子達だって可愛いんだぞ!
現状に悩みつつも、こうやって掌の上のむーたんを眺めていると、『可愛い』が先に思い浮かんでしまう。
気晴らしにこうして夜の散歩に出てみようとしたのだけれど、一人は何となく寂しく思えた。
迷いに迷って、一番仲良し(だったらいいな!)のむーたんを連れて来てしまっている辺り、自分は本当にウチの子可愛い脳なのかも、なんて。
――俺って、駄目だなぁ。
「ごめんね、むーたん。情けない飼い主で。俺がもっとちゃんとしてたら、むーたんも皆もひもじい思いをしなくて済んだのにさ」
俯いてしまった俺を、むーたんは優しく慰めてくれる。
ポッケから出てよじよじ&すりすりなんて、俺をコロス気かな?
ピカーン!!
俺が他の人には見せられないあられもない姿を晒していた、その時。
突然激しい光が空中に瞬いたんだ。
一瞬、道路からの車のヘッドライトが直撃したのだと思った。でも違う。
不思議な光は空中にとどまり、ふよふよと「俺は人工的じゃないんだぜ」と言わんばかりにこちらに近寄って来た。
「なっ、なになになになに! むーたん、隠れて!」
本当はもっとすりすりされていたいけど、俺の中の本能がヤバイって感じていたんだ。勿論俺は立ち上がってここから離れようとした。
「あわわわわわわわわわっ!」
しかし実際はカクンと膝が折れて腰砕け。情けないことこの上ないが、だって仕方ないだろう?
光の中から何かが現れたんだから!――。
「これって、もしかしてニュースで見た『未確定物体X』じゃ……」
現れた黒い物体はボコボコ形を変えながら、最終的に人型黒怪人になっていた。
えっと、ニュースでは――
「み、見つけ次第……けけ警察に連絡!」
俺は震える手で何とかスマートフォンを取り出す。
えっとでも、しっかり距離を取って見つからない様にしながらと言っていたような気がする。
「確かこいつ、襲ってくるんじゃなかったっけ……?」
じりじりと近寄ってくる黒怪人X。俺はまだ足腰に力が入らなくて、スマートフォンを握り締める事しか出来なかった。
「むーたん! むーたんだけでも逃げて! 早く!」
首筋にいたであろう、むーたんに叫ぶ。
「って、えっ!? むーたん!!」
でも俺の肩には、むーたんはいなかったんだ。肩じゃなくて前……
驚愕する俺の目の前に、「彼」は、いた。
彼と言ってしまったのは、あまりにカッコよかったから、なんてハハ。俺もどうかしてるぜ。
「む、むーたん?……」
俺の胸は信じられない驚きと、感動と形容しても間違いじゃない気持ちではちきれんばかりに膨れ上がっていた。
俺と黒怪人との間に立ち塞がる様にして、両手を広げているむーたん。
小さな小さな身体で通せんぼする背中に逞しさを感じたのは俺だけだろうか。
カシャッ カシャッ!
「カッコ可愛いとかサイコーかよ!」
指が勝手に動く。
なんて軽いんだ、この身体は。さっきまでとはうって変わった俺の足腰。
『可愛い』ってすべてを超越する愛だと思うんだよ、ふっ。
気付くとカメラマン宜しく連写メっていたのは許してほしい、本能だ。
でもでも、幾らなんでも未知の生命体に、ハムスターのむーたんが敵う筈がないよ。
――むーたんを抱いて、とにかくここから離れないと!
幸いにも動くようになった身体のお陰で、俺はむーたんに掛け寄る事が出来た。
「あれ? でも、こいつ――」
しかしどうだろう。じりじりと動いていた黒怪人は、むーたんが仁王立ちしてからというもの、動かない。どころか後退しているようにも見える。
これは、一体?
「あっ、そうか! ニュースで見た……」
『未確定物体X』は『ペット達の浮かばれない心が具現化したもの』の可能性って。だから同じ動物であるむーたんには何か通じるものがあったのかもしれない。
「い、今のうちに警察に連絡を。うわっ!」
スマートフォンがカシャンとコンクリートに落ちる。何かが飛び掛かって来たのだ。目視は出来なかったけど、きっと黒怪人が何かしてきたに違いない。
絶対絶命! 俺は思わず目を瞑った。
その時――。
「心配しないで、みっちゃん!」
弾かれる音と共に、透き通った快活な声が耳に響いたんだ。
「ほえ?」
目の前に立つスラリとした長身の青年は顔だけで振り返ると、ニコッと笑みを浮かべたのだった。
アイドルがコンサートで身に付けていそうな煌びやかな衣装と輝く笑顔は、俺の視線を釘付けにする。
「僕が守ってあげるよ!」
キラリン。
ウィンクしたミルクティー色の瞳からは星が瞬き煌いた。
「あ、はい」
どこぞのアイドルばりのオーラを醸し出すこの青年は、一体!?
とにもかくにも、どうやらこのイケメンが俺を助けてくれるらしい。
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