第12話 西と東の宝⑥


「全く、愚かしい事だよ」


 ハハ……と笑って、天を仰いだ。

 目を覆っていた左手で、笑いすぎて出た涙を拭った。


「じゃあ、まずは……」


 別の棺へと歩を進めた。

 老人が眠っていた。王も王妃も。

 多分この秘宝は、長い眠りの果てに生き永らえる為のものだろうと察する。

 西の国の王は、自ら国を見捨てて自分たちだけ助かろうとしたのだ。


 ひとつひとつ。

 棺の上から透明な硬い蓋ごと『黒炎』で貫く。


 四人目の男は二十代後半くらいの年齢だろうか。ルミフィスティアには相応しくないと思える、見目も大して良くない普通の男だった。

 釈明くらい聞いてもよかったが今の自分にはそこまでできる心の余裕はないと分かっていたのであっさり一突(ひとつ)きして、もう見向きもしなかった。



 最後の棺に触れた。


 思いの外(ほか)、刀を握る手が震えた。


 安らかな顔が視界に入ってしまって、涙を流しながら笑ってしまった。


「ああ……凶悪な寝顔だなぁ」


 振り上げていた腕を下ろすと、手から刀が落ちて音がした。



 自分の命も、もう長くはない。


「そこにいるんだろ? 『管理人』」


 部屋の奥、隅の方に人影が動いた。

 超極秘事項なんだが古代文明の秘宝にはそれを管理する役目を負った機械人形が近くに潜んでいる事がある。至宝の呼びかけだけに応える。


「ハイ」


 暗がりから出てきたそれは本当に人形かと疑う程、信じられないくらい人間であるように見えた。彼の赤い髪が揺れる。


「お願いだ。この娘を護ってほしい。娘が目覚めたら見守って、力を貸してやってくれ」


「承諾シマシタ。シカシ、任務ヲ失敗スル可能性ガアリマス」


 機械人形はそう言ったが、こいつに任せておけば大概安心だ。一体で大国でも易々と滅ぼせる程の英智が詰まっている(それを操れる至宝が国の切り札たる所以(ゆえん)だ)。


 西の国がこいつの存在に気づかなくてよかったよ。西の国に秘宝が発見されたのは大層昔だから、近年いくつか発見された東より詳しくはないのだろう。



「ぐっ……!」


 咳き込むと右手に、血がべっとり着いた。


「はあ」


 ルミフィスティアの棺の傍に腰を下ろした。


「不穏分子も排除したし、一応オレの任務も終わったかな?」


 意識が霞む。

 最期にらしくもなく、叶う筈もない願いが浮かんだ。


 もし、来世があるなら……。


 巡り逢う日を夢に見た気がして、目を閉じたまま微笑んだ。

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