三十六着目「中間管理職ハウススチュワード」
「採点結果を発表する!」
紅茶テストの結果は、吉野執事により即時発表された。
ちなみに、合格ラインは80点以上だ。
「夕太郎くん、89点合格!」
「ヤッタ!」
僕は、思わず拳を掴んでガッツポーズした。
アイツ(一縷)の変な授業のせいで、ヤバいと思って、ほぼ徹夜で勉強したんだ。
ガッツポーズもしたくなる。
「オイッ!夕太郎、合格したとはいえ、11点も落としているんだ。安心するなよ。茨の道はこれからだぞ。でも、ひとまず一週間よく頑張ったな。トレビアンおめでとう!」
吉野執事が珍しく僕にトレビアンと言ってくれた。
そして、彼から手を差し伸べ握手をしてくれた。
吉野執事の手指は、細くもガッチリと力強く僕の手を握ってくれた。
目の奥は本当に嬉しそうだった。
社会に出てから、全然期待に応えられなかった僕、初めてその期待に応えられたような気がして、胸の奥から熱いものがこみ上げた。
咽かえりそうになったが、グッと堪えた。
だって、リョーマ君がいる。
「次、リョーマ君……」
「……」
「……」
ん?どうした?やけに間が長いぞ、『ドン。ドッルルル・・ジャーン!』僕がドラムロールの効果音でも付けた方が良いのか?
と冗談を考えていると……
「68点、不合格!」
「ぅっ」
小さく声を発するリョーマ君の表情は、硬くもなんとなく納得の表情だった。
きっと、彼自身が自覚していたのだろう。
『ニンマリ』
僕は思わず、頬が緩んで微笑を浮かべてしまった。
正直、真剣勝負では勝てないと思っていたライバルが落ちて嬉しい自分がいた。
がしかし、その一瞬の表情を今完全に吉野執事にみられてしまったのを視線から感じた。
でも、もうコイツ(リョーマ君)に用はねぇだろ。
『ご愁傷様』
心の中でお別れの言葉を呟いた矢先……
「追試を行います!!」
吉野執事は無表情に、でも力強い声で言い放った。
「はぁ!?」
面白くないのは、僕の気持ちだ。
あれだけ、人に危機感を煽り、感情を揺さぶっておいて『一発合格』以外許さないと散々言っておいて、追試とはなんだ!?
僕の頑張りは何だったのか?さっきの熱い握手は何だったのか?一気に僕の心のマグマが沸々と湧きあがるのを感じ、抑えるのに精いっぱいだった。
「随分と面白くなさそうだな。夕太郎」
「いえ、別に……」
いや、そりゃそうだろ。ふざけんなっ!
「夕太郎くん、君がどう思おうが勝手だが、今日中に合格点を取れたらそれは一発合格だ!」
「……」
リョーマ君は自身なさげに俯いている。
「ったく、上にどう説明すれば良いんだ……」
ボソッと呟く吉野執事に僕はキレた。
『チッ』
大人の都合の良い言い訳に、僕はもう怒りを隠そうとせず舌打ちをした。
そして、吉野執事をナイフを突き刺すかのように睨みつけた。
(なんだよ、結局テメェの保身じゃねぇかよ。今まで良いように言いくるめやがって)
結局、非現実世界を謳っているココも現実と大して変わらない。
目の前にいるのは、『中間管理職ハウススチュワード』だ。
「ほぅ、貴方もそんな恨みに満ちた突き刺すような眼をするんですね。ある意味、見直しましたよ。
そんなに、威勢が良いなら、結果でみせるんだな!!」
(セリフが完全に悪役だ……)
「30分後に追試を行う!!」
改めて、語気を強める吉野執事
「それまで、キミがリョーマ君をフォローして合格出来るように!
もしできなければ、連帯責任で二人とも今日よりお屋敷から去ってもらう!!」
(もうヤケクソなのか?なんて不条理な事を言ってるんだ……なんてメチャクチャな職場なんだココは……)
『ポンッ』
先程の悪役な態度とは、裏腹に僕に優しく手を置く吉野執事
「トレビアン、では、夕太郎くん頼みましたよ」
研修室を出る吉野執事の最後の言葉は、なんだか暖かく優しかった。
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