だから

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 最後の島で、それの最後を迎えた。

 はじまりは最初に着いた島で起こったことだった。

 ある日、おれが辿りついたのは無数の島々が三日月型に点々と浮かぶ海域だった。諸島というやつである。旅暮らしの中、なんとなく海でも眺めに行こうと思って行きい、それがあだとなった。おれが目的地で、目的通り、砂浜で海を眺めていると、とある老人が目の前で行き倒れた。そして、うわ言のように、島を救ってくれ、うんぬん、と言い出した。彼が倒れた原因は空腹だったらしい。けれど、そのときは、相手が空腹だとは思っていなかった純真な持ち主のおれは、慌てて彼を介抱した。その後、なし崩し的に、老人を家まで送って行くことになった。彼の家は隣の島にあった。家につくと彼の孫娘、キヨジがいた。彼女は「わたしはキヨジもう申します孫娘ですよろしくお願いします」と、息継ぎ無しで一息で自己紹介した。キヨジいわく、海のそばに生まれ、ずっと海に潜って遊んで育ったので、肺活量が大きく、つい、一息でしゃべってしまうという。

 その真偽は定かではない。

 調査する気も不在である。

 そして聞けば、老人と孫娘のキヨジが暮すこの島は、ある組織にそそのかされ、島を開発することになり、そのせいで、けっきょく島民が全体的に大きな借金を背負うことになったらしい。けれど、島民には返すお金がない。そのため、期限内に借金を支払わないと、島を奪われてしまうという。

 キヨジは「信じていたのに約束を破られたのです」といった。

 そこで、この問題を解決するべく、老人は、この海に浮かぶどこかの島に隠されているという、ある宝を探すことにした。

 それは、怪人の宝。

 その後、いろいろあって、おれはキヨジと共に、その怪人の宝を探すことになる。宝はこの海に浮かぶどこかに島にあるという伝説なので、島々をめぐることになった。

 やれるだけ宝を探してみるも、基本的にも、どの島でも宝のありか、その手応えがなかった。そのため、結果的にただただ各島をめぐる、観光的側面の濃い島めぐりとなった。

 そして、けっきょく、怪人の宝はみつけることはできず、最後の島まで来た。

 ただ、その島へ着く前、おれはある島で竜払いの依頼を受けた。依頼をしたのは、近くに暮らす島の子どもたちで、その報酬は小袋にたくさん入った宝石だった。

 聞けば、なんでも、まえに子どもたちが前に無人島で遊んでいた時、みつけたらしい。

 竜払い依頼を完了させて、おれはその宝石を受け取った。

 それから最後に島で、キヨジと合流する。

 彼女は夕方の港にいた。

「これを」

 おれが宝石の入った小袋を渡す。

 怪人の宝ではないけど、とは言わなかった。

 簡易に情報を整理すると、怪人の宝探しという奇怪な協力体制をここに完結すべく、いわば、手切れ金ともいえる。

 むろん、宝石はおしい。けれど、宝探しに協力する約束をしたので、そう、なんというか、しかたない。

 それに、お金なら、また竜を払って手に入れればいい。

 おれの身体はまだ動く、まだ竜を払えるし。

 宝石袋を受け取ったキヨジは無表情のまま中を見た。宝石を視認したはずだけど、反応はほぼなかった。

 もしかして、借金を返すには、全然足りないのか。

 そう思っていると、彼女は言った。

「ねえ」

 と。

「わたしの島に、残ってください」

 おれに、心のゆだんがあった。

 いつも一息で話す彼女が、呼吸を挟んでしゃべった。だから、完全に虚をつかれた。

 はじめて見る彼女の顔があった。

 おれは動揺しつつ、けれど、なぜ、という表情を浮かべていたらしい。

 彼女がいった。

「こんな、ばか。ばかげてる。信じられない。ばかげた約束を守る人なんて。わたし、今日まで約束をやぶる人ばかりに会ってきました。ほんの小さな約束も守れない人たちばかりだった、勝手に現れて、御伽噺みたいな希望をみせて、約束して、でも、ぜんぶ嘘だった、そんな人ばかりだった」

 海の音だけが聞こえた。

「こういうばかげた約束を人が、そばにいてほしいです」

 そう言われた。

 また、海の音だけが聞こえた。

「ぼろ」

 おれはそういった。

「ぼろが出て、いろいろばれる前に、おれは行きますよ」

 苦笑してそう伝えると、やがて彼女も笑った。

 それから頭をさげ、大陸へ向かう。

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