ゆったりいったり
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
この海の浮かぶ島々のどこかに、莫大な宝が隠してあるらしい。
しかも、怪人の宝らしい。
怪人が、隠した宝らしい。
怪人って、なんだろう。
とうぜん、そこに根本的な問いかけは発生する。けれど、そこへの疑問を追求しだすと、特殊な思考の手間がかかりそうなので、ひとまず精神を不毛の消耗させないように、後回しにしていた。
で、この島のどこかに隠された怪人の宝があり、その宝の在りかを探している者たちがいる。
そして、おれはいま、この怪人の宝探しの件に巻き込まれていた。
貰い事故みたいな巻き込まれて方である。
ただ、中途半端にかかわってしまったので、このまま中途半端にかかわろうとは思っている。全力を出す気はねえ。
この件とは、一定の心の距離をもって、対応する所存である。
で、彼女、キヨジもまた、そんな怪人の宝を探している一人だった。彼女は故郷の島が、とある理由で背負ってしまった莫大な負債を返済するため、怪人の宝を探していた。
キヨジは、おれとそう年齢も変わりそうにない女性できっと二十六、七歳くらいだった。
眉毛の先がとがっているのは特徴的である。
そしていま、そのキヨジが、酒場の一席で、麺料理を食べうとしていたおれの前に座り、口を開いた。
「ヨルさんおまたせしましたこんばんは事前通達いたしました通りこれから宝探しのために有効な情報を持っている情報屋をここに読んでいますこの酒場で夕方頃に待ち合わせしていますのですもう少ししたら姿を相手は現れると思います向こうからこちらを見つけてくれるはずです」
息継ぎ無しで、しゃべる。
聞けば、彼女は海のそばで育った影響で、幼少より、海に潜ってよく泳いでいたため、肺活量が大きく、けっか、息継ぎ無し一気に話してしまうらしい。
いや、ゆたかな肺活量と、息継ぎなしで一気に話すことと関連性は不明である。
それはそれとして、キヨジは今日も息継ぎなしで一気に話した。
キヨジが説明してからほどなくして、酒場に黒い外套に身を包み、丸い灰色の帽子をひどく目深く被った小柄な女性がおれたちの席へ座った。あまりに帽子を深くかぶっているので、隣に座られても、口元しか見えなかった。
キヨジが口を開く。
「ヨルさん彼女が情報屋のユシルルですわたしの生まれ育った島とは違う出身ですが彼女もこの海に浮かぶ島の出身者ですわたしとは大学生時代からの友人で卒業後はこの海の島々に残された歴史ついて調べているうちに情報収集能力がどんどん高まりその副産物的に成長した諜報能力を転用していまは情報屋として身をたてています」
「そうなのか」
と、おれは言って、情報屋である彼女、ユシルルを見た。
やはり、帽子を目深くかぶっているので、口元しか見えない。
その口元が動いた。
「はじめー、ましてー、わたしは、ユシルルと、もうします。いごー、お見知りおきをー」
独特の区切りを入れつつ、彼女は名乗った。
「じぜんにー、くわしいことはー、キヨジから、書面にてー、説明を、うけていますー、この海の、どこかにあるー、かいじんの、たからを、おさがしなの、ですね」
彼女は、ゆったりとしゃべった。
すると、キヨジがいった。
「ヨルさんユシルルの出自の島はこの海で最も年中ゆったりした波と風に包まれた島なので彼女の主たるしゃべり方もゆったりなのです」
「そうなのか」
それを聞いて、あらためてユシルルへ視線を向ける。
彼女は、ゆったりとした動きで唇を上下へ開いた。
「それでお金の話ですが情報に対するお金のですがつけは不可能です先払いになります支払後こちらが提供した情報が必ずご依頼主様の望む結果とならない場合もありますのでご了承ください」
「お金については、ゆったりしてないんだな」
そういうと、キヨジは「はいお金の部分だけはわたしが有人として完全に仕込みました完璧に仕上げました」と、言葉をよせてきた。
で、おれはいった。
「そうなのか」
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