ひといきここまで
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
真向かいに座る老人と眉毛の太く、先がやや角っぽくとがっている女性だった。
彼女は、家の奥から、すたすたとした足取りでお茶を持って現れ、お茶を置くと、おれが座る卓子の斜め横へ座った。
そして、こちらへ顔を向け、口を開いた。
「わたしはキヨジもう申します孫娘ですよろしくお願いします」
姿勢がひどく良い。一礼もきれいだった。
齢は二十代後半あたりだろうか。おれと齢は近い気がする。
「本日は祖父が急な空腹で行き詰まっているところを助けていただきましてありがとうございました」
礼を述べて、彼女はおれへ向かって大きく頭を下げる。
おれは、いま、とある砂浜で助けた老人に連れられて、老人の家のあるこの島までやってきた。老人は、孫娘と一緒に暮らしているらしく、おれが家に着くと、奥から彼女を呼んだ。彼女の名前はキヨジというらしい。
そういえば、いっぽうで、おれは老人の方の名前をまだ聞いていない。
と、思っていると、キヨジがしゃべりだした。
「祖父は毎日朝昼晩と食事をしっかりとっているのですが生来の大食漢でしてしばしば空腹で倒れてしまうのです日朝昼晩食べているので倒れているので放っておいても絶対に大丈夫なのですがそれでも心配していただきさらに食料までくださりまことにありがとうございます家族を代表してわたしからもお礼をお伝えいたします何もないのですがせめてお茶を飲んでいってくださいよろしければ夕食もご用意いたします」
キヨジは息継ぎもせずそう言った。
ただ、区切りがないので、聞いている方にとっては、情報と情報の区切りも、とらえにくかった。
すると、祖父である彼がいった。「はは、このあたりの人間はですね、海ですごくよく泳ぐので、呼吸が長く続くのです。だから、一気にしゃべれるのです」
その解説を聞き、おれは少し時間をあけてから「そうですか」と返した。
はたして、そうこうことなのだろうか。疑念を抱きつつ。
すると、キヨジが口を開いた。
「あなたはヨルさんとおしゃいましたね良いお名前ですね呼びやすいです剣を背ってらっしゃるのでもしかしてそういう方面の生業のお方なんですかいいえ詳しくお話ししていただく必要はありません人には皆事情がありまるから大丈夫ですこの島はどんな方でも分け隔てなく受け入れる島ですそうそうそういえばもしかして祖父から怪人の宝の話をされましたか聞かされましたよね祖父はいつもその話ばかりしているのですでもここのところよりその話ばかりするようになっているのには大きな理由がありますヨルさんもこの島に来るとき港は御覧になりましたよねあの港は最近できたばかりなんです実は祖父が怪人の宝の話をヨルさんにしたのもあの港が原因なんです」
また一息で話された。
キヨジは「ここまで何か質問は」と聞いて来た。
気になることはあったけど、キヨジが一気に話し、しかも、いろんな情報が混ざっているせいで、とっさに頭の中を整理できず、質問も考えつけなかった。
「では話を続けますあの港は最近つくられたんです一年くらい前大陸から投資会社の人がこの島にやってきてこの島に新しい港をつくれないかと島の人たちに持ち掛けましたこの島はいいところですが若い人が少ないんですみんな外の島に出て働きますでももしもこの島の大きな港ができれば島での仕事も増えるしそうなれば外から島へ来る人も増えるのでこの島に港をつくるため投資かと説明されました結果的に島の人たちは投資することにしたんですそれでその投資会社経由で手続きをして島へ大きな港をつくってもらうことにしたました完成した港は投資したこの島の人たち全員に所有権があるかたちですです港は予定通りいいえ途中追加費用が発生して予算を越えたのですがそれでも完成したのですが島にはまったく大きな船がやってきて使われませんでした投資したお金は島の人たちが出したのですが実際は島のほぼ全員が借金をしている状態でした投資会社の当初の説明では港が計画通りに使われていれば月々の売り上げで投資した島の人たちへお金が入りそのお金で借金を月々返済もできさらに少しだけ儲かるとのことでしたが投資会社の計画説明通り島の人たちの収入になることもなく島の人たちはお金は返せず借金だけを背負っている状態に陥ってしましました悪いことに借りたお金には利息もつきますすると投資会社はお金が返せないので港の所有権をうちの会社が買い取って借金の返済にあてるしかないと提案してきましたしかし港の売却金額は建設費用を遥か下回る値段なのです」
と、キヨジは言っておれを見た。
「ここまで何か質問は」
問われておれは考えて「いや、まあ」と、あいまいな反応をした。
キヨジは口を開いた。
「島の人たちが借りたお金の返済期限はまもなく過ぎますこのままお金を返さないと港は安く買いたたかれしかも港を手放したとしてもみんな借金を全額を返すことは不可能つまりこれは詐欺だったんです投資会社は島の人たちに最初から返済が行き詰まることをわかっていて港をつくられその後は港を安く手に入れる計画だった投資会社が港を手に入れるあとは借金を返すため島の人たちをあの港で働かせるそれもかなり安い賃金で働かせる人件費が安いので港の利用料金もこのあたりの他の島に比べて格段に安くできるのでゆくゆく港を使う船も増えるそういう計画だったのですそこで祖父の怪人の宝の話です祖父はこの海に浮かぶ島のどこかにある怪人の宝をみつけこの島のみんなの借金を一挙に返済しよと考えましたこのままではこの島はあの投資会社のすべて奪われてしまうその前に宝をみつけてこの島を救いたいと」
そこまでしゃべると、キヨジは卓子の上にあったお茶を手にとり、椀に入っているお茶を一気に飲み干す。
そして言った。
「ここまでで何か質問はありますか」
問われておれは、言った。
「いま飲んだお茶は、おれへ提供されたお茶では」
「それは質問ではなく指摘です」
殺伐とした感じでそう跳ね返された。
おれは彼女を見て、少し時間を置いてから「一気にしゃべるし、一気にお茶も飲むんですね」と言った。ただ、後で、もしかして、いまの無粋な発言だったかと思い、挽回するため、「生命力を感じるしゃべりですね」と、けっきょく、目的不明のいまいちなことを言っただけだった。
すると、彼女はしばらくじぃぃっとおれの顔を見て、やがて、顔を赤くした。
いや、なぜ、顔が赤くなったのだろうか。
それがいま、ここまで最もしたい質問だった。
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