ですますえ

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 ある町で、竜払いの依頼を受けた。

 で、町で暮らす子どもたちがいつも遊ぶ広場に現れた竜を払った。やや、ふとった中型犬ほどの大きさの竜だった。

 広場から、竜が飛んで空へ還ってゆく竜を見届け、依頼者へ完了報告を行った頃には、夜になっていたので、その日は、そのまま町のとある宿へ泊った。

 よく食べて、よく寝て、朝を迎え、外套を羽織り、剣を背負って、宿屋を出た。

 快晴である。

 町は朝陽のなか、動きはじめていた。野菜や牛乳を詰んだ馬車が次々に運び込まれてくる。 麺麭屋は麺麭を焼き、店の前には小さな行列ができていた。

 さあ、おれもまた、今日を始めよう。と、思ったとき、無邪気な気配を感じた。

 見ると、五歳ぐらいの女児が建物の影からこちらを見ている。短い髪なのに、むりやり、ふたつ結びにしているため、左右の髪が真横に伸びていた。

 こちらが顔を向けると、彼女は、だっだっだ、と走って来ながら「おはようございますです! りゅうばらいさん!」と声をかけてきた。

 おはようございますです。

 おはようございますです、か。

 と、独特な挨拶を気にしている間に、彼女はおれの前へ立った。手には何か紙をもっている。

 とりあえず、おれは「おはようございます」と、彼女へ朝の挨拶と一礼を放った。

「これ、おれいですます!」

 彼女はとうとつに持っていた紙を渡してきた。

「あげますです! りゅうばらいさんにですます! りゅうをわぁーってしてくれたおれいですます!」

 そう言われ、おれは渡された紙を受けとった。そして「拝見」といって、紙を見る。それは、数色を使用して描いた絵だった。じつにほがらかな絵柄で、おれらしき人物が、竜を払っている場面の絵だった。

 おれは「この絵は、君が生産を」と、訊ねた。

「へい!」

 元気よく返事をしてくる。

「そして、この絵をおれにくれると」

「おれいですます!」

 なるほど、お礼か。

「ありがとう」おれは彼女へそう伝えた。「いい絵です、独特な躍動感で竜が描けている」

 正直、おれには絵のことは専門外だったのでわからない。

 けれど、おれのために描いてくれたことが、なかなかうれしい。

「つまり、うまくかけているのですね!」女児は喜び、その場で飛び跳ねた。「あ、あ、そうです! こ、このえもみてみて、ですます!」

 興奮した彼女は、別の絵も渡してくる。見ると、それも、ほがらかな絵だった。

「うちのとうさんを、かきました、です!」そういって、べつの絵も渡してくる。「これはおかあさんですます! あ、あ、こ、こっちはおばあちゃん、あと、いぬと、とりさんと、ねこねこです!」

 次々に、絵を渡して見せてくる。

 おれは「どれも素晴らしい」と、伝えた。「魂が入っている」

 彼女は「うは、ひゅー!」と、さらに喜んだ。

 そして、おれは彼女にもらった絵を持って、町から旅立った。

 けれど、すぐ、宿屋に本を忘れたことに気づいた。まだ、全部、読んでいない本である。

 そこで宿屋へ戻った。

 すると、宿屋の前に、あの女児がいた。

 路上にござが敷き、その上へ、さっき見せてくれた絵が並べられてあった。

 それぞれの絵にひあ、値段も設定してあった。けっこうな値段である。近くに設置された看板には、つたない文字で『まちをすくったりゅうばらいもみとめた、え、はんばいちゅう』と書いてある。

 とうさん。

 かあさん、おばあちゃん。

 いぬ、とりさん、ねこねこの絵も販売しているようだった。すべてを売り払おうとしている、らしい。

 女児はおれに気づくと、しばらく無表情で見返しから、ふたつ結びにしていた髪を、ほどき、髪を風にもてあそばせつつ、せつない表情をしながらいった。

「あなたにだけは………ほんとうのわたしを………みられなくなったですます」

 おれは、少し間をあけてからこう言った。

「そうか」と。

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