もちはこぶもんだい
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
まてよ。
と、いま通り過ぎた人を見て思った、肩掛け鞄をした男性だった。
もかして、鞄を使って旅をしていた方が、いいのではないか、と。
おれは定住地を持たず、ずっと、旅暮らしをしている。そして、旅の装備といえば、常に外套を羽織っており、その外套の下に、細々とした物資のあれこれを収納してている状態だった。そう、非常食や石鹸などの生活必需品は、がんばって、ひとつにぎゅっとまとめて、持ち運んでいる。
とはいえ、そんなに大量には持てないので、消耗品に関しては、こまめな補給が必要である。
それに、本の所持も欠かさせない。必ず、読む本を一冊、持って行動していた。
あと、剣を背負っているのみだった。
とにかく、必要最低限の物資と、本を、ぎゅっとまとめて、その上から、外套を羽織り、さらに、その上から剣を背負った状態の人生で今日までやってきた。
けれど、とうとつに思い、つい、その場に立ち止まってしまった。
そして、曇った日の、とある町の通りにて、思った、もしかして、鞄があった方が、いいのではないか、この人生には。
で、とりあえず、道行く人の邪魔にならないよう、道の端へ移動して、続けて考える。
そう、おれは旅暮らしである。行き先々の土地で、竜払いの依頼を受け生きてきた。竜はこの星のどこにでもいるし、どこへでも現れる。むろん、竜は人がいる場所にだって現れる。そして、人は竜が恐い。
ゆえに、竜を追い払う、竜払いという役目が存在するし、この世界で竜払いというの生き方が成立している。おれは、四、十五歳あたりから、こうして二十五歳になったいまでも、それで生きてきた。
ただし、その間、鞄を持って生きてはこなかった。
すなわち、鞄のある人生は、未体験である。
いや、竜払いをはじめたときから鞄を持っていなかったので、なんとなく、鞄なしでここまで来てしまった感じはある。ええい、鞄など、ぜったいに持つものかあ、と力強く決意して鞄を拒否した記憶はない。
ならば、鞄を持っても。
けれど、まてよ。と、想像力が自動的に作動した。かりに、肩掛け鞄を手にいれたとする。で、竜払いをする。するちと、竜を払う際、鞄が、ぶらぶらと邪魔になったりしないか。で、剣を振るときとか邪魔になったり、あと、竜が噛んできたときに、鞄に牙とかにひっかかりやしないか、足の爪で、せい、っとらたとき、鞄を踏まれてしまわないか、竜の口から離れた炎で不幸にも鞄だけ炎上しないか。
いや、まてまて、竜を払うとき、鞄を外していればいいだろ。そうさ、鞄をどこか、地面にでも置いていれば。
まてよ。けれど、置いたその鞄が誰かに盗まれる可能性がある。
ならば、背負う形式の鞄にすればいいのではないか。
おれは腕を組みつつ、考える。その間に、足元を町に生きる茶色の野良猫が過ぎる。
猫を見送った後で、いや、やはりだめだ、となった。俺はいつも背中へこの剣を背負っているし、剣を背負った状態で鞄は背負いにくい。それに、いま着ている外套は竜が吐く炎から身を守るための防炎壁にする役目もある。場合によって、炎を浴びけた瞬間、外套を手早く脱いで身体を包み、炎から身を守るような動きもある。剣の方は長年、背負っているので、背負っていても外套を素早く脱ぐ技術は獲得してる。けれど、鞄を瞬時に外す技術は、ここから新規獲得する必要がある。
だったら、いっそ背中から鞄を外して、竜と遣り合えばいいのでは。
そう鞄をどこかへ置いておき。
いや、だから、盗難への懸念が。
などと、次々に考えているうちに、けっきょく、頭の中が、わー、っとなった。しまった、けっきょく、そうか、おれはいつの間にか、鞄を持てない、そんな人間になっていたのか。
その問題をかかえた、人間に。
人間に。
そんな、人間に―――。
ま、いいか。
これは、また今度、考えよう。
そう、おれは、鞄がないから荷物はたくさん持ち運べないけど、問題を未来へ持ち運べる人間である。
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