れきしはゆきづまる

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。


 

 黄色の枯れ草に包まれたなだらかな丘が、波にようにうねって広がっていた。

 この丘に竜が現れたと聞いた。平均的な家の扉一枚ほどの大きさの竜らしい。

 人家は見当たらないが、丘には、このあたりの人が使う主要道が通っているため、竜を払ってほしいと依頼だった、急ぎの依頼ではないらしい。

 竜はこちらから攻撃しなければ、向こうからはまず来ない。けれど、事故は起こる。

 丘は広大だった。ずっと向こうに海がある、そこからかすかに水平線が見えた。竜は海へ向かって行った先の道沿いから見える場所にいるという。

 丘を渡る道を歩いて向かう。他に歩く者はおらず、空は少し曇り気味だった。

 しばらく進んだ頃、道の端に馬車がとめてあり、男性二人組がいた。

 ひとりは、小柄な中年男性で、整えた髪型に白い帽子をかぶっている。もうひとりは若く、二十代あたりだった。眼鏡をかけている。近隣住民の服装とはあきらかに種類が違う、図書館に着ていく感じだった。

 ふたりは道沿いの地面をともにみつめている。おれが近づくと、小柄な中年男性の方がふりかえった。

「おやー………きー………きみはー………」中年男性は、語尾をのばし、かつ、ささやくようなしゃべり方だった。さらに落ち着きもある。「りゅうー………払いかいー………」

 問われたので、立ち止まり「はい」と、答えた。

「あららー………こまったねえー」

 とたん、中年の男性は腕を組み、悩みだす。

 すると、眼鏡をかけた若い男性が「教授、どうしましょう」といった。

 中年男性の方は教授なのか。となると、彼は生徒とかだろうか。

「あのー………りゅう払いのお方………」

「はい」

「じつはねー」教授はそういって、しばらく、かたまった。なんの間なだろうかと気になりかけたころ合いに「そうー、そうだー………まずはこれを見てほしいー………」と言い出す。

 教授が示したのは、彼の足元だった。そこで近づいてみる。

 どうやら、教授たちが立っていたのは、小さな丘の上だった。

「あのね………遺跡っぽいものを発見したのね………」

「遺跡」顔を見返し、指し示された地面を見る。

 けれど、ただの石が転がる地面にしか見えない。

 そこで、いまいちど「遺跡」と、いいながらふたりを見る。

 すると、教授が口を開いた。

「あなたー………、竜………はらうー………わけだよねー、これからー………竜があっちいたし………」

 竜はあっちにいるのか。

 はからずも情報を得て、示された方を見る。

「でもね………いまね………この近くでねー、竜をばたばた、と、あれされるとねー………こまるの、あのねー、ここに遺跡、あるということなのね………、これ歴史的な発見なのね、となるとね………、まんがいちでもね、あなたが竜を払うとき………、まちがって遺跡を壊したりなんかされるとねー、こまるのねー、私はこれを学会に発表しないといけないのね、そう! これは驚くべき発見になるはずなのね! これでいままで私を馬鹿にしてた奴らを根こそぎ、どぎぼを抜かせてやるのおおあ!」

 しゃべりながら、後半は、ささやきめいた口調もなくなり、流暢になり、途中から怒りもある。怪物みたいだった。

 そこで、ふと、訊ねてみた。

「あの、どんな遺跡がここに」

 すると、助手がいった。

「あー、いや、遺跡なんかここに全然ないですよ、どうせまた教授の浅はかな早とちりです」

 はっきりと笑顔で教えてくる。

 また、というからには、もしかして、こね教授には、以前にも間違えた歴史でもあるのだろうか。

 見ると、教授にとっては触れてはならない歴史なのか、わかりやすく落ち込んでいる。正気がないせいか、全身白んだように見える。

 教授自身が遺跡みたいになっていた。

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