はじまるとおわった

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



「ついにみつけたぞ、ヨル!」

 突然、道の真ん中で、若い銀髪の男が剣を構えて現れ、行く手をふさいだ。

「我が宿敵よ、はは、とうとうみつけたぞ! やっと追いついたさ! こしゃくな奴めが、うろうろと移動ばかりし、こちらの追跡を巧みにかわしやがって! わかってんだからな、この卑怯者めが! ににに、ははー、まあいいさ! 今日、ついにこうしてお前に追いついたんだ! もはや、もはや、お前もこれまで! 終わりだ終わりだ、この、宿敵めがぁ! この時をどれほど待ち望んでいたことか、あぁ思い出せば深い記憶になる、はは、むろん、貴様だって覚えているだろうよ、ああ、そうだよ、そうだよ、あの時さ、あの時、五年前の話さ、忘れるはずないだろう。貴様にとっても、あれは忘れられるはずがない、なんせ、あんなことがあったんだ! 貴様はあの時、卑怯にも、あんな手を使い、そのために、そのため………父上は! しかぁし! 積年の恨み、いや、この呪いにも似た人生はここで終わる、今日終わる、すぐ終わる! はは、貴様のせいで、我は誇り高き一族が滅びたのだ! そう、すべてはあの日、あの日に起こった、そう雨の日の夜さ、貴様が我々の屋敷に現れた、道に迷ったとかなんとか、ぬかし、一晩の宿をもとめて! 母上はお前の疑いもしなかった、姉上にいたっては、やや赤面だ! なんたる悲劇だ、そして姉上の赤面! 見たくない感じの肉親の赤面! ああ、いま思い出しただけでもやりにくい! 貴様は人の好きそうな顔をして、我が一族の中枢に入り込んだ! 父親もはじめはいぶかしだものの、だが、卑劣で卑怯な貴様はぁ! 父上の珍奇な趣味に対して、奇遇ですなぁ、とか、なんとかぬかして、一緒にだ! 一緒に、変なかたちの石集めに付き合い、その心に取り入り、やがて、父上を篭絡! ああぁ、それからの悲劇! どこで持っていっても紛れもない悲劇へとつながる! そう、つながるのだ! き、き、貴様は! 貴様はあの時、父上とともに、山に入った、変な形の石をさがしにな、そして、帰って来たとき、貴様は父とふたりで、どうかんがえても、一般家庭には邪魔で塵にしかみえない巨大な石を拾ってきた! そのおかげですぐだ、すぐ、父と母で喧嘩だ! そんな石もって帰るな! と母。ええい、黙れ、この石いるんだものと、父! そこへ姉上が言った、ふたりとも落ち着いて、だったら、両方の意志をくんで、石を割って、ふたりでそれぞれわければいいじゃない、とな。母は言った、うっせぇ、異次元の話を持ち込んでくるんじゃない、とな。姉は、きー、っとなった。父はだめだぁ! この石だけは、ぜったい! ぜったい! と必死に抱え込む! まだ十七歳で幼かった俺はその様子を扉の影から見ていた、と、いやいや、まてまて、十七歳は幼いと表現すべきか否か、とか思っているじゃないだろうな! はは、些細なまちがいを指摘して悦に入ろうなど、なんたる器の小ささ! 聞いてあきれる! もう相対的にしょんぼりだ! で、で、で、けっか、我が家は破滅だ! なんか、いろいろあって、最後は破滅した! まあ、みんな、いまはそれぞれ、元気にやってるけどな、でも、その時は破滅したわけであり、その時の破滅についてこうして怒っているんだ! というか、お前、あれだな、よく見ると、あの時の男じゃない! ぜんぜん顔が違う! はは、名前が同じだからまちがえた! って、いやいや、名前も同じじゃない、あの男の名前ヨブだった! そうだそうだ! 人まちがいだった! すまんじゃあなあ!」

 そうして、男は去ってゆく。こちらの人生にまるまる不要な情報だけ与え。

 出来ることは、なにもなかった。

 無力さとかは、微塵も感じていない。

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