りゅうりゅう、として

サカモト

りゅうりゅう、として

1〜

えがく

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 その日の依頼は、牧場の真ん中に鎮座した竜を払って欲しいという内容だった。

 対象の竜は、首をめいっぱい伸ばせば、大人がたてに二人にしたくらいの高さがあり、竜としては大きい部類ではある。

 竜は数日前から牧場に現れて、そこになにをするわけでもなく居座り、以後、依頼者いわく、気になって牧畜業務が滞ってしまうらしく、なにより邪魔だし、牛たちが竜に怯えて困っている、と、依頼人から牛乳をふるまいながら話された。

「ほら、ね、牛乳の味もなんか薄いでしょ」と、依頼人から言われた。

 けれど、はじめてここで飲む牛乳なので、比較対象の情報もなく、答えようもない。ただ、礼儀として「素敵ではありますよ」といった。いった後で、いまいちな発言の頂点だと気づき、その後、逃げるように現場へ向かう。

 依頼人は竜が怖いので、ひとりで現場に立つ。竜はそこにいた。

 そして、牛たちは竜を遠巻きしている。あまりおびえている気配がない。もしかして、牛たちは竜をただ巨大な牛と思っているのではないか。

 それはそれとして、やるべきこと、竜を払いにかかる。

 背負った剣へ手をかけよとした、その時だった。

「待ちたまえ」

 背後から声をかけられる。

「待つといい、そこの仕事人」

 振り返ると、そこに老紳士がいた。身なりが妙に毒毒しい色使いで、弱毒性の毒きのこみたいだった。

「はい」

「きみ、まさか、いまからあの竜を払う気か」

「ええ、そうですね」何者だろう、わからず、さぐりさぐりに答えた。「あなたは」

「あれを見よ」

 指をさされた先を見る。どうやら、絵を描いている途中らしく、それらの道具一式があった。

「いま、私は絵に描いている、がしかしだ、きみがいくら仕事とはいえ、ここではっちゃけられたら題材がにげてしまう、困るんだ」

 やや、立腹ぎみでそういって来た。

「あの、題材がにげて困るとおっしゃりますが、題材がにげて困るといわれた方もまた、困るのであり」

「ああ」

 話している途中で、毒きのこみたいな老紳士は露骨に顔を左右にふった。

「きみは芸術の敵だ」

「その心当たりがないです」

「御託はもうたくさんだ」

 だめだ、話を聞かない。会話すると、全滅した気持ちにされる。

「いいか! 見たまえ、きみ、あの偉大な生命の身姿を、う、う、うつくしいじゃないか、ああ! ああ!」

 まるで歌うように両手を伸ばしながら竜の方へ近づいてゆく。

 すると、竜は接近した紳士を尻尾ではじき飛ばした。邪魔です、っとばかりに。そして、紳士は、積み上げられ牧草の山に突き刺さった。

「死んだ」勝手に決めて口からこぼしてしまう。

 けれど、実際は、きっとあれぐらいなら絶命はしないだろう。竜の尻尾の角度も振る速度も、小虫を払う感じだった。

 それでも、しかたなく、紳士の様子を確認しに近づいた。

 そのとき、描いていた絵が見えた。

 そこに描かれていたのは牛だけだった。

「なら、なんで竜へ近寄って行った」

 思わずつぶやいた。

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