第13話

僕は冬休みのほとんどを布団から出ることが出来ずに過ごした。食欲もないし、起き上がる気力がない。どうしても、なにをする気にもなれなくて、ただただ、あの日のことを思い出していた。


「あら、素敵ねぇ!」

僕が振り返ると、おばあちゃんが僕の机の上に置いてあった、彼女からのフラワリウムを眺めていた。僕は、彼女からの贈り物に手をつけることが出来ず、そのまま机に放置していた。フラワリウムも時計にも手をつけていないし、手紙も読んでいない。いや、読めない。怖いんだ。

「貰い物かい?」

「そうだよ。」

おばあちゃんは嬉しそうだった。いつもの優しい笑顔を微笑んでいた。

「ラベンダーの花言葉を知ってるかい?」

僕は首を傾げた。

(花言葉...考えてもみなかった。)

「『あなたをずっと待っている』って言うらしいわよ?」

その言葉を聞いた途端、心臓が大きな音を立てた。喉が熱くなり、目から涙が溢れてくる。僕は布団を頭から被った。

「蒼を待ってくれている人はどんな子なのかしら?」

おばあちゃんの声は相変わらず嬉しそうだった。

ああ、本当に君はこの世にいないのか。本当はわかっていた。でも、認めたくなかった。だから、僕はお葬式にもお墓にも行かなかった。君が本当にいなくなったのだと伝えられても泣かなかった。君がまた目を見て笑ってくれると信じたかったから。


『待っている』か。もう、このまま彼女の元へ行ってしまおうか?彼女が待っている。僕は今すぐにでも彼女の花のような笑顔をみたいと思った。

部屋を出ようとして、彼女からの贈り物が目に付いた。そうだ、時計。天国の彼女もまだつけているだろうか?彼女は最期の時、時計を身につけていた。僕も一緒にしよう。

あ、手紙...。読まないで行ったら、彼女は怒るだろうか?彼女との会話の話題を増やしたいし、読んでおこう。最期が彼女にこの世にいた彼女の気持ちを知っておきたい。

僕は手紙の封を開けた。


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