第8話

10月も後半。日差しも少し弱まり、過ごしやすい季節になった。

「君、好きな色は?」

君は綿菓子の様なふわふわした雲が浮かぶ空を見上げて、そう聞いた。

「青だよ。」

「えー!緑かと思ったー」

何だこのはじめましての自己紹介みたいな会話は。と思ったが、せっかくなので乗っておこうと思った。

「じゃあ、君の好きな色は?」

「紫だよ!」

彼女は得意げにそう言った。

「赤とか、オレンジかと思ったよ。」

「よく言われるー」

彼女の明るい、活気ある雰囲気から紫はとても想像出来なかった。

「ねえ、青ってあんな感じ?」

彼女は空を指さしてそう言った。空には綺麗な水色が広がっていた。

「いや、もっと濃い、群青色みたいな色かな」

「あー、何となくわかった気がする。」

彼女は納得したように、頷いていた。

「紫は?どんな紫?」

彼女は頬に手を当て、うーん、と大袈裟に考える振りをした。

「ふつーの紫!」

「ああ、何となく伝わったよ。」

僕はそう言うと、なんだかおかしくなって、笑ってしまった。彼女もほぼ同じに笑いだした。それがおかしくて、もっと笑ってしまった。ひさしぶりにこんなに笑ったかもしれないと思って、自分でも驚いた。


僕は最近彼女を見ていて、気になることがある。

教室での彼女はとても楽しそうだ。友達に囲まれて、休み時間になる度クラスの大半が彼女の周りに集まり出す。昼休みはどうやって抜けていているのだろうと、不思議に思うくらいだ。

でも、時々、楽しそうな笑顔の合間に、暗い影を落とすことがあるように感じる。それはほんの一瞬で、僕の見間違いかもしれないが、それでも、そんな気がする。

やっぱり、ずっと人に囲まれていると、疲れてしまうのだろうか?さすがの彼女にも、そんな感情があるのだろうか?僕には分からない、世界線だ。やはり、人間はないものねだりだ。

完璧だと思っていた彼女の中に人間らしさを見つけて、少し、安心したような、嬉しいような、そんな感情が湧いた。

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