第88話 あれだよな?

-side ラインハルト-




「んんーー!!これも、あれもうめえ!!おい、ラインハルト!向こうに行こうぜ!」

「あ、おいっ!ルーカス!今回はお忍びで来てるんだから、あんまり、目立つような真似は……!」

「う、うわっ!せ、精霊だ!!……あれ?この精霊見たことあるぞ?……という事はもしかして、あそこにいるのはラインハルト様!?」

「えっ!?まじかよ?本当だ!ラインハルト様だ!」

「ラインハルト様!いらっしゃっていたのですね!これ持っていって下さい!」



 あーもう。お忍びで来ていたことを気づかれると、こうなるからコソコソ行動していたんだけど……。仕方ないか。

 やれやれ、人気者は辛いのう。



「何というか、色々と可哀想なやつだよな。お前……」

「本当は、キャーキャー言われたかったのね……友達いないから」

「憐れみが深い」

「ム、ムキーーー!友達いなくて、何が悪い!!何も困ってねえからな!!そ、それはそれとして、この人だかり、どうしようか?」



 あの後、無事何事もなく本を変えた後、市場で食い歩きしている最中、楽しくなってしまったルーカスが町中で騒いでくれたおかげで、俺たちのことが気づかれてしまったようである。

 どうしようか……と戸惑っていると、向こうから大急ぎで、商人のジェフが来た。



「ぜえ……ぜえ……、ハァ……ハァ……。ラ、ラインハルト様。本日来る予定は無かったような気がするのですが?」

「ああ……こうなるよな。忙しいのに、わざわざすまない。今日はお忍びできていたんだ。だから、出迎えは不要だ」

「そ、そういうわけには参りません!ラインハルト様に何かがあったら一大事ですから!!」

「だ、大丈夫だ!俺は強い!いざとなったら自分で自分を守れるから、護衛は不要だ!」

「ラインハルト……」

「ん?」

「嘘はいけないわよ?余計、可哀想に見えるわ」

「う、嘘じゃないもん!」

「残念なやつ」「憐れみが深い」

「ぐ……実際、魔法で自分の身を守れるのは事実だろ?……加減は効かないけど」

「ラインハルト様。それは、自分で自分の身が守れているとは言いません。やはり、護衛をつけさせていただきます」

「ぐうぅ……分かった」

「ですが、驕らずに周りの意見をしっかり聞いているその態度は、素晴らしいですね」



 いや、言い合いが弱すぎて、言い返せないだけなんだが……とは口が裂けても言えないんだけど。



「言わなくても顔に出ているわ」

「あはは。しかし、ご立派なのは本当だと思います。これは、ここだけの話ですが、身分が高い方で、他者の行為や意見を高いレベルで、許せる方というのは少ないのです。酷い方だと、待ち合わせに1分遅れただけで、ピリピリしてしまいますから……」

「あ、あはは。その様な方もいるんだね」



 それは、ジェフさんが悪いのでは?と思うのは前世の環境で育ってきた上で、染みついてしまっている感覚なのだろう。

 この世界、時間には結構ルーズなのである。それこそ、10分の遅刻でもまあまあ、いいだろう……。むしろ、身内のノリのパーティなどに行くときは、時間ピッタリに行くと、まだ準備出来ていなかったりして、気まずい思いをしたり……ということが多々ある。この世界では、ジャフが今言った様な人たちというのは変な目で見られる事が多い。文化の違いってやつだ。

 この文化を受け入れられたのは……、覚えていないが、前世の俺も、今世でも、根っこの部分は時間にルーズだったからだと思う。



「ところで、皆さま。残りの時間は責任を持って案内させていただきますので、ご安心ください。お探しのものや、良いお食事屋さんも紹介いたしますよ」

「よっしゃ!」

「是非お願いします」



 マークとアルバートが喜んで答えた。

 ……ってそこは主人の俺が答えるところなんだけど。ま……、まあ?俺は寛容みたいだし、許してやるか。



「……やっぱり、ラインハルトって、色々あれだよな」

「ええ……あれね」

「あれみが深い」

「せめて、あれが何かぐらいちゃんと言ってえ!?」



 こうして、俺たちは平和に?グルメ旅を楽しんだのだった。



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