【発売記念】ラセルの母。ルキソルの最愛の人(前編)
本日『劣等職の最強賢者』単行本2巻が発売されました。
それを祝しまして、外伝を書きました。楽しんでいただければ幸いです。
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これは【村人】に転生し、ラセル・シン・スタークと名付けられ、後に六大職業魔法のすべてを収める賢者――その7歳の時の話である。
ある日、俺はスターク男爵家にある本を読んでいた。
粗方、【速読】の魔法で読んで内容は頭に入っているが、時々こうしてゆっくりとページをめくり、復習をしている。
意外と見落としや、新たな発見があったりするからだ。
そして、それが今日だったらしい。
パラパラとめくっていると、ページとページが貼り付いているのを見つける。
俺は慎重にページを剥がすと、出てきたのは、手の平よりも少し大きな絵画だった。
絵画といっても、【
そこには3人の家族らしきものが移っている。
椅子に座った母親が生まれたばかりの赤ん坊を抱き、その横に父親らしき男が立っていた。
母親と赤ん坊には見覚えがないが、男の方には覚えがあった。
「これ、ルキソルか?」
思わず父親の名前を呼んでしまう。
間違いない。顔の骨格、髪と瞳の色。
我が父ルキソル・シン・スタークだ。
それにしても、今と全然変わらない。
この時はまだ騎士団長をやっていただろうから、多少筋肉がついているがな。
「ということは横にいるのは……」
ラセルの母親、そして抱かれているのは察するに、ラセル自身――つまり、俺だろう。
そう言えば、妹のシーラの話もルキソルから聞いたことがないが、母親の話も聞いたことがない。
シーラを生んですぐに亡くなったとは聞いた。
そのためラセルの記憶の仲にも、おぼろげにしかない。
何か理由があるのだろうか。
あまりいい母親ではなかった、とか。
思えば、母親の形見のようなものもないし、それとわかる肖像画などは1枚も屋敷に飾られていない。
考えてみれば、母親の顔を見たのも、この絵画が初めてだ。
ふむ。少し気になるなあ。
俺は思い切って夕食時に尋ねてみた。
「父上、1つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ん? 珍しいな。ラセルが私に質問など。いいぞ。どんな質問でもドンッと来たまえ」
「では、母上のことですが……」
ガチャンッ!
すると、突然ルキソルは立ち上がった。
すでに空になっている食器を手早くまとめると、流しに置く。
「あ、あの……。父上?」
「ラセル……」
「は、はい」
「その話はまた今度でいいか? 最近ポルンガとの剣術修業でかなり疲れていてな」
「は、はあ……」
「というわけで、先に寝る。お前も早く寝ろ。明日は朝練の日だからな」
俺を指差し、忠告すると自分の私室へと戻っていってしまった。
な、なんだ、あの態度は……。
やはりルキソルとその妻との間に何かあったのか。
◆◇◆◇◆
次の日のルキソルはいつも通りだった。
『ラセル復讐同盟』の盟友ポルンガとともに、朝から汗を流している。
随分鍛え上げられただけあって、ポルンガの動きはかなりマシになってきた。
ルキソルの六大職業魔法は【
その様子をぼんやり眺めていると、スターク領の領民が慌てて駆け込んできた。
「ルキソルさん、大変だ! 西の森に魔物が出た!!」
「西の森?」
珍しいな。
西の森は比較的魔物が少ない地域のはず。滅多に魔物が出ないはずだ。
「かなりの大物だ。猟師の話じゃ、コングベアじゃないかって……」
コングベアか。
厄介だな。
特に癖はないが、全体的に基礎能力が高く、イッカクタイガーと同じCランクの魔物だ。
熊を簡単にねじ切る能力と、馬よりも速く動けるのが特徴。
目を付けられたら最後、地の果てまで追いかけてくる執念深さも持つ。
「どうする、ルキソルさん? 討伐隊を組織して……あっ! ルキソルさん!!」
突如、ルキソルは飛び出した。
「領民を安全な場所に避難させてくれ。コングベアは私1人でどうにかする!?」
「1人でって……。いくらあんたでもコングベアを単独なんて」
領民の制止を聞かず、ついにルキソルは西の森に消えてしまった。
どうしたんだ、ルキソルのヤツ?
いつも魔物が出ても、的確に指示を出して、領民の命を最優先にするのに。
あんなスタンドプレーをする人間ではない。
昨日の母親についての反応といい。
どうもおかしいな。
「さっ! ラセル坊ちゃん、避難しましょう」
領民たちはひとまず非戦闘員を避難させることに決めたらしい。
俺とポルンガは、避難所となったスターク家の屋敷に戻るよう促された。
「あ。そうだ。木こりのおじさん、今日は西の森でお仕事するって言ってたよ」
「え? そうなのかい?」
「僕、木こりのおじさんと仲がいいから知らせてくるよ」
「あ! ちょっと! 坊ちゃん!!」
「大丈夫! すぐ戻ってくるから」
俺は軽く手を振り、ルキソルの足跡を追った。
◆◇◆◇◆
今は初春――。
里の雪は溶けてしまったが、森の中にはまだ雪が残っていた。
おかげでルキソルの足跡を辿るのは用意だ。
「おかしいな」
魔物を討伐するというなら、周りを見て立ち止まったと思われる形跡が残るはず。
実際、コングベアが通ったと思われる痕を見つけたが、ルキソルがそれに気づいた様子はない。
一心不乱に森の向こうへ走っている。
そんな感じだった。
「コングベアも気になるが、まずはルキソルと合流することが重要だな」
俺は一旦屋敷に戻って、持ってきた弓と矢を背にして、ひたすらルキソルの後を追った。
すると、獣臭が濃くなる。
『ぐおおおおおおおおおおおお!!』
森を震わせるような叫び声が上がった。さらにドドドドドッという激しいドラミングが聞こえる。
コングベアだ。
最悪なことにルキソルがつけた足跡の先から聞こえた。
微かにだが、剣戟の音が耳朶を打つ。
どうやら、すでに戦闘に入っているらしい。
現地に辿り着くと、思った通りだ。
ルキソルvsコングベアの戦いが始まっていた。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
後編は明日更新です。
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