4章 王国篇

第48話 賢者、テロを阻止する

昨日、拙作原作『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス6巻が発売されました。本日『劣等職の最強賢者』のコミカライズ更新ありませんが、どうぞそちらの方も読んでいただければ幸いです(詳しくは近況ノートにて)


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 ヴィラ・アムスト王国の王都では、凱旋祭が行われていた。


 300年前、魔族が滅び、ヴィラ・アムスト王国を建国した初代王が凱旋した記念日なのだそうだ。

 やたらと、昔の技術は廃れているのに、こういう行事はずっと残り続けているらしい。


 7日間続く凱旋祭の間、様々な催し物が行われ、本日はパレードが行われていた。

 パレードの催行日には、冒険者学校は休みとなる。

 俺はセシル、サラサ、そしてローワンとともに、パレードを見に来ていた。


「すごい人の数ねぇ。一体どこから現れたのかしら」


 セシルはピョンピョンと跳ねながら、周りを見渡す。


 人、人、人……。360度、全部人だ。

 沿道にたくさんの人間がひしめいていた。

 パレードが始まるのを、今か今かと待っている。


 俺は「はあ……」とため息を吐いた。


 7度転生している俺にとって、祭りは初めての体験だった。

 スターク領で小さな祭りはあったが、国を挙げての祭りはこれが初参加になる。

 どんなものかと思って来たのだが、見えるものといえば、人の後頭部ぐらいなものだった。


 すると、歓声が上がる。

 遠くの方から演台が載った馬車が現れた。

 勇ましい武具姿の男が、手を振り、沿道の声に応えている。


「ヴィラ・アムスト王国の第二王子ラシャラン様だな」


 王都出身のローワンが説明する、


 流れるような金髪。

 涼やかな瞳。

 甘いマスク。


 女性を魅了するに足る美貌を、ラシャランは兼ね備えていた。


「あれが本物の王子様かぁ。かっこいいわねぇ……。ねぇ、サラサ!」


「う、うん……」


 セシルの言葉を聞いて、サラサはちらりと俺の方を向く。

 俺と目が合うと、すぐに逸らしてしまった。

 頬を上気させる。


 ん? サラサの今の反応はなんだ?


 たまに理解しがたい行動をするんだよな。

 また今度、尋ねてみるか。


「ああ……。人が一杯で見えないよぉ!」


 セシルはピョンピョンとジャンプするが、人垣で全く見えない。

 さらに手を挙げて、振るものだから、余計だった。


「ほらよ」


 ローワンはセシルの脇を掴む。

 そのまま自分の頭より上に持ち上げる。


「おお! ナイス! ローワン。むちゃくちゃ見えやすいわ」


 セシルは満足する。

 だが、俺は思わず笑ってしまった。

 ローワンとセシルの背丈は、大人と子供の差ぐらいある。

 そのせいで、セシルが父親に「高い高い」してもらっている子供みたいに見えた。


「ああ! 今、王子様と目が合ったわ!!」


 そんな風に思われているとは知らず、セシルは興奮している。

 ローワンに持ち上げられていることも忘れて、バタバタと足をバタつかせた。


 楽しそうで何よりだ。


 肩を竦めると、ローワンは何を思ったのか、俺に尋ねた。


「ラセル、お前もしてやろうか?」


「は? なんで俺が……」


「お前の背じゃ見えないだろ」


 にへら、とローワンは笑った。


 な――ッ!! 馬鹿にするな。


 これでもちょっとずつ背が高くなってるのだ。

 毎日、牛乳も飲んでるし……。

 ローワンと違って、俺の背丈は大器晩成型なんだよ。


「必要ない」


 俺は魔法を起動した。

 【魔導士ウィザード】の【浮揚】だ。

 ふわりと浮き上がる。


「サラサ……」


「え?」


「手を出せ。お前も、興味があるんだろ?」


 セシルの横で、つま先立ちになりながら、パレードを見ようとしているサラサを、俺は目撃していた。


「う、うん」


 サラサは手を握る。

 そのまま彼女を引き上げ、横抱きした。

 そして、ゆっくりと浮き上がる。


 一際歓声が上がる。

 浮かび上がる俺たちに視線が集中した。


「な、なんかわたしたち目立ってませんか?」


「そ、そのようだな。……だが、よく見えるぞ」


「うぅ~。でも、ちょっとはずかしいかも」


 群衆の頭を下に見ながら、俺たちはパレードを見つめる。

 下でセシルが「ずるい! あたしも!」と抗議の声を上げていた。


 俺たちの行動に、演台の上で手を振る王子も驚く。

 さわやかな笑顔を浮かべ、こちらに手を振った。

 サラサはポッと顔を赤くしながら、手を振り返す。


 その横で俺は1つ気になっていたことがあった。


「俺たちと同い年の子供がいるな」


 手を振る王子の側。

 俺と同年齢ぐらいの少年少女が控えていた。

 何をするわけでもなく、王子の側に控えている。

 ただその眼光は油断なく、周囲に向けられていた。


「たぶん、軍事学校の生徒じゃないかなあ」


「軍事学校……?」


 ああ、そうか。

 そういえば、そういう教育機関があったな。

 ヴィラ・アムスト王国には、冒険者学校の他にも、王国の将校クラスを養成する軍事学校がある。


 各地から才能ある子供たちを集め、将来の将官を教育していく機関だ。


 後でローワンから聞いて知るのだが、軍事学校の生徒の成績上位者は、毎年祭りの警備に借り出されているらしい。

 王子の周りに控える生徒は、特に優秀な人間なのだそうだ。


「う~ん」


「どうしたの、ラセルくん」


「何か忘れているような気がするんだ。俺が王都に来た理由は他にもあったのだが……」


 いかんな。

 この年で物忘れとは……。

 なるべくメモを取るようにした方がいいだろうか。


 俺は首を傾げる。

 すると、偶然不審な動きをする男を見つけた。

 王子が立っている演台付きの馬車に近付いてきている。

 もっと近くでパレードを見たい……。

 そういう風に楽しんでいるように感じない。


 それに気になるのは、懐に手を入れたままだということだ。

 何かを隠し持っているらしい。


 俺は魔法を起動する。


 【逆探知】


 魔力の反応を見る。

 ここには様々な人間がいる。

 多くの魔力反応が返ってきた。

 だが、その中で一際大きな反応が返ってくる。


 どうやら、男が持っているものは、魔力爆弾らしい。

 使い方は爆弾と一緒だ。

 導火線に火を点ければ、その先の魔宝石が反応し、爆発する。

 大きく違うのは、火薬式の爆弾よりも威力が強いということだ。


 しかも、反応は4つ。


 祭りを惨劇に変えるつもりらしい。


 俺はそっとサラサを地面に下ろした。


「いーなー。いーなー。あたしも飛びたい!」


 子供のように駄々をこねるセシルを無視する。

 俺は「安全なところに逃げろ」と忠告すると、魔法を起動した。


 【敏捷性上昇】【脚力上昇】


 さらに、靴に【物体加速】を付与する。


 最後に――。


 【超反応】


 魔法を起動させると、地を蹴った。

 群衆が沿道を埋める中、俺は光のように移動する。

 【浮揚】を使えば、接近は容易い。

 が、それでは他の仲間に気取られる。

 群衆の中を移動し、隠れながら、俺は1人目に辿り着いた。


「な――――ッ!!」


 突然、目の前に現れた子供に、男はうめき声を上げた。

 間髪入れず、俺は男の鳩尾に肘を入れる。

 男は寄りかかるようにして、俺の方に倒れてきた。

 そのまま担ぎ、群衆の外へと連れ出す。


 とりあえず、1人。


 俺はさらに移動する。

 あっという間に、もう1人を見つけ、無力化した。

 2人目――。


 その時、パレードは最高潮に達する。

 馬車が止まったのだ。

 通りの中央に止まると、王子は一層自分の愛を振りまき始めた。

 沿道の都民たちが、一斉に馬車へと集まり始める。

 おそらく、これも演出の1つなのだろう。

 周りの衛士に慌てた様子はない。


「まずいな……」


 魔力爆弾を起動するなら、このタイミングだ。


 俺は再び地を蹴る。

 3人目へと走った。

 群衆の中を突っ切りながら、ようやく辿り着く。

 すでに火を付け、今まさに導火線に火を付けようとしていた。


 俺は立ち止まることなく、そのまま男の急所に拳を突き入れる。


 そのまま踵を返すと、4人目に向かった。


「きゃああああああああ!!」


 絹を裂くような悲鳴が上がる。

 3人目の男が倒れているのを、誰かが見たのだろう。

 場は騒然となる。

 今の悲鳴を聞いて、4人目が動くはずだ。

 すかさず俺は魔法を起動した。


 【浮揚】


 俺は空を舞った。

 それを見て、歓声が上がる。

 だが、手を振って応える暇はない。


 俺は真っ直ぐ4人目に向かう。

 その前に立った時、俺は一瞬動きを止めた。


 子供だ。


 おそらく【村人】。

 いや、振り返って考えれば、俺が倒した全員が【村人】だった。


 いつか聞いた『革命の志士』の名前を思い出す。


 王子爆殺を企んでいたらしい。


 だが、俺の頭によぎったのは、前回までの転生。

 ひどく昔のことだ。

 孤児院時代の仲間たち。

 ようやく物心ついた子供を、死地に送り込む大人たちの記憶だった。


 まだ子供を争いの道具にしているのか。


 ギリッ!


 俺は奥歯を噛んだ。


 子供が持った魔力爆弾には、すでに火が点いていた。

 導火線を伝い、火が本体の中へと消えていく。

 気付いた観衆が悲鳴を上げた。

 だが、集中した俺には随分遠くに聞こえる。


 爆発が始まる。

 光が周囲に走った。

 今まさに爆風が広がろうとするのを、【超反応】を起動していた俺には見えていた。


 瞬間、俺は手を触れる。

 すかさず魔法を起動した。


 …………。


 数拍の沈黙。


 すると、ごとりと爆弾が地面に落ちた。


 爆発を予期して、伏せていた群衆がゆっくりと顔を上げる。

 何事もない。

 遠くの方では、まだ大事を知らず、騒いでいるものもいた。


「ラセル、大丈夫か?」


 ローワン、さらにサラサとセシルが駆け寄ってくる。


「ふー。なんとかなったか」


「びっくりしました。爆発したかと思ったのに」


「今度は、時間でも戻したの」


「【時間遡航】はまだ獲得していない」


「冗談でいったつもりなのに、そんな魔法があるんだ」


「じゃあ、どうやって爆発を無力化したんだ」


 ローワンが尋ねる。


「【変性】だ。爆発自体の性質を、他の属性に転化したんだ」


「ええ!?」


「爆弾を!!」


「「「他の属性に変えたぁぁぁぁぁあああああ!?」」」


 仲間たちの絶叫が響き渡る。

 目と口を大きく開けて、驚愕した。


 俺は子供の手から落ちた爆弾を指差す。

 爆弾が石の塊に変わっていた。


「へ、【変性】ってそんなことも出来るの?」


「ん? 【鍛冶師ブラックスミス】の防御方法としては、割とポピュラーだと思うぞ。セシル、今度教えてやろうか」


「無理無理!! てか、そんな防御方法を聞いたことないわよ」


 昔の【鍛冶師】たちはよくやっていた方法なんだがな。


 特に爆発の防御方法は難しい。

 なにせ同時的に襲ってくる爆風や熱、光を、その都度仕分けしながら、【変性】を起動しなければならないからだ。

 0.3拍の間に、1000回は起動しなければならない。


 まあ、確かに職人芸ではあるな。


「0.3拍に1000回起動って」


「お前、一体あの瞬間に何回魔法を起動したんだ?」


 セシルがポカンと口を開ける横で、ローワンは頭を掻いた。


 さあな……。


 さすがに、数を数えているほどの余裕はなかったよ。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


12月19日『劣等職の最強賢者』コミックス4巻が発売されます。

若干ウェブ版より駆け足ですが、村から出奔、冒険者学校入学、そして猫猫猫先生のかわいい新ヒロインと内容盛りだくさんなので、ご予約お願いします(詳しくは近況ノートにて)

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