四ツ目のハガネ

谷橋 ウナギ

プロローグ


 軍服の男が演説を打つ。倉庫のような錆び付いた広間で。男は左胸の勲章を、見せつけるように両手を開いた。

 その前には並び立つ兵士達。銃を持つゲリラの様な集団。直人は彼等の中に居て、演説を静粛せいしゅくに聴いている。


「二十二世紀初頭。愚かな者達により人類は破滅の時を迎えた。だが教導日本政府きょうどうにほんせいふは取り戻す! 滅び去った文明を! 消え去った秩序を! そして造り出す! より優れた新たなる世界を! 諸君はその礎となるために存在する!」


 熱弁を振るう軍服の男。だが彼の言葉は間違っている。直人はそのことを理解していた。演説を聴いているこの時すら。


 戦争と環境破壊によって文明が崩壊したこの世界。土地を奪い、思想を強制し、従わぬ者達を撃ち殺す。

 故に──直人は願っていた。ただ平穏な日々を過ごしたいと。作物を育て、魚を捕まえ、慎ましやかな生活を営む。


 しかし、この世界は残酷で、直人は人殺しが得意だった。


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