第39話 飛んで火に入るダブステップ 4
平家と馬宮、厳つい顔をした大柄な男二人に懇願されるも愛依は大した情報を出すことが出来なかった。
クスリを売っていた男もこれといって特徴のない何処かの大学生かフリーターかといった様相で、クスリの受け渡しなど無ければそのまま合コンにでも行く雰囲気だった。
それについては八重にも話していたので、平家と馬宮にはその他の特徴は?と強めの口調で問われるも愛依には何も思い当たらなかった。
首筋に刺青の一つでも入れてくれてたら良かったのに。
無茶苦茶な落胆を抱きつつ、愛依は力になれない無力さに心を痛めた。
千代田組が総力で探せばすぐに見つかるだろう。
つい先程まで愛依はそう楽天的に思っていた。
下部組織の小さな組とはいえ二十数名で構成される千代田組は見た目の迫力は絶大だ。
絶対に近寄りたくない存在であり、羽音町においてはある意味警察より頼りになる存在だった。
ヤクザな立場な故に警察を頼れなくても千代田組の組長も愛娘のこととあれば血眼に探して、少々の暴力沙汰が起きて人知れず解決される話だろう、とそう愛依は思っていた。
しかしながら、今目の前にいる千代田組の構成員二人は愛依のあるかどうかもわからない線の細い情報を頼りに学校の校門前で生徒たちに睨みを効かせてる始末だ。
なんとも頼りない。
なんとも不格好な。
なんとも、こんな連中に親友のことを任せた自分の馬鹿さ加減に腹が立ってきた。
「赤いジャケットの男? だったっけ。そっちの目撃情報とかは無いの?」
「え、お、いや、そっちの線も情報が無くてな」
苛立ちが口調に乗っかる。
愛依の語気に平家が戸惑う。
徹夜して人気の少なくなった街中を走り回ってみたものの、八重の姿も赤いジャケットの男の姿も見当たらなかった。
若頭からの通達で定時連絡を他の組員とスマホで取り合うも、成果無しの報告を確認しあうだけだった。
その事を若頭に報告する為の電話は、手が震えてなかなか画面をタップできなかった。
定時連絡ごとに聞くことになる冷たい、探せ、の一言が平家と馬宮の心臓を突き刺していく。
組長は八重を拐われたからといって、誘拐犯の要求など飲まないだろう。
先程愛依に説明した八重争奪戦はあくまで若いヤツラの暴走ごとに結末づく話だ。
千代田組を舐めくさっているヤツらは
だから、娘を拐えば要求を飲み薬物販売市場の出来上がりと安易に考えるだろうという話。
しかし、組長はもしかすれば娘を切り捨てる判断もしかねない人物だ。
娘を拐われたという面子丸潰しの事態を娘ごと潰しかねない人物だ。
「警察に連絡は?」
「するわけないだろ」
「なんで? ヤクザの面子? 組長の娘のことよりそれが大事?」
「それが大事な世界なんだよ、極道ってのは」
厳つい顔をした大柄な男二人が女子高生二人に詰め寄る状況は逆転し、愛依が平家に詰め寄る。
「もうおおっぴらな話になっちゃってるんだから、今さらそんなことで面子もくそもないでしょうよ」
「あんだよ、何処までいっても守らなきゃならねぇラインってもんが」
「あっそ」
愛依が腕を組んでぷんすかと言わんばかりに鼻息をふく。
このままじゃ、八重は見つからないだろう。
極道の世界なのか、チンピラの世界なのか、知ったことではない世界の知ったことではない政治に八重は使われてしまうのかもしれない。
そんなことは許せない。
興味本意で危ない橋を渡ろうとした自分を怒って止めてくれた親友を助けなければ。
愛依は鞄からスマホを取り出した。
何か情報かと平家と馬宮が食いつくが、それを手で制した。
間に挟まれる形の華澄は仁王立ちのまま、何がどうなってるのかと話の流れを首を動かし黙って追いかけていた。
「おおっぴらになっちゃったなら、もう遠慮なく探すしかないじゃない」
「は? ネェチャン、何する気だよ」
「私ね、こう見えて顔は広い方なの」
小顔だけどね、と愛依は続ける。
「八重捜索作戦、開始!!」
ポチッとな、と愛依は続けてスマホをタップした。
また昭和!、と華澄が元気よくツッコむ。
「オイオイ、ネェチャンもしかしてよ──」
「そうSNSを活用しての捜索作戦よ!」
「これ以上大ごとにしてどうすんだよ!?」
誘拐犯に対しての対応とか刑事ドラマで見たこと無いのか、と平家は文句を言いたかったが、警察に頼れないと言った手前その情報を持ち出すのも格好がつかなかった。
「大丈夫、探してるのは赤いジャケットの男だから」
「あ? そんなの街中にいて情報過多になるんじゃねぇのか?」
「そこはやたら警戒してる人物だとか、女子高生連れて歩いてるとか、付加情報で判断するに決まってるじゃん。大体昨日の昼間から赤いジャケットのままなのかも怪しい線なんだから」
あるかどうかもわからない情報を足で探すよりは遥かに早い捜索だろう。
愛依のスマホに通知が続々届いていた。
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