第150話 マッピ、触手が効かない

 お久しぶりです。マッピです。故郷のお父さん、お母さん、お元気でしょうか。


 秋も深まってきて、山の木々も色づいてきた頃と思います。夜になると随分と冷えてくるようになってきましたので風邪など召されないよう十分気を付けて下さい。


 弟のヨールはしっかり勉強してますか。また前みたいに「お姉ちゃんみたいに冒険者になる」とか言って困らせていないか心配です。


 冒険者の仕事は危険が伴うので、ヨールには堅実な仕事について欲しいです。


 え? 私の方はどうかって?


 そうですね。私は今、触手に捕まってレイプ寸前です。


「んぎぎぎぎ……足を開かせようとすんな~ッ!!」


「わからせ……メスガキわからせ……」


 がんばれ私の内転筋!! セクハラ元ギルドマスターなんかに負けるな!!


 ハイ。ぶっちゃけ速攻でオリジナルセゴーの触手に捕まってしまいました。ターニー君を助けることには成功しましたけど私の方が性交されそうです。オートマタを助けて私の股がピンチです。


 なんなの? セゴーさん女の子にこんなことするためにそんな姿に生まれ変わったの? 他の人は触手で雁字搦めにしてすぐ捕食したっていうのになんで私だけは両足を掴んで足を開かせようとしてるの! せめて清い体のまま死なせて!


 もうダメだ、脚の筋肉が限界……となった時にセゴーの方も諦めたのか、脚に絡めていた触手の拘束をほどいて私の胴体の方に触手を絡ませてきた。


 くそっ、結局あれか、ヒロインは触手にエッチな目にあわされちゃう宿命なのか。しょうがないか、私が可愛すぎるのが悪いんだもんね。こんな超絶美少女を前にしたらセゴーが変な気持ちになっちゃうのも仕方ないっていうか……


 下半身の方は一旦諦めてまずは上半身の方から攻撃して十分ほぐしてからっていう事ね。やることが汚いわ。おぼこな田舎娘なんて触手攻めでイかせてやろうってのね。


 触手が私の胸のあたりに絡みついて持ち上げる。すごい圧力……うう、こんな奴にいいように弄ばれるなんて。自分でもほとんど触ったことないのに、こんな化け物に成長途中の幼い蕾をいいように弄ばれるなんて。ホントにこれからどーんと成長する予定だったのに。


 ずどん。


「あいたっ!!」


 と、思いきや。なぜか触手からするっと抜けて私の体は取り落とされてしまった。なぜ? どういうこと? よく分からないけど、これは逃げるチャンスだろうか。


「か……体に凹凸が無さ過ぎて、上手く掴めない……」


 あぁ? んだとコラ!? 誰の体がまな板じゃコルルァ!! くそっ、マジで切れそうだわ。


「もっかいやってみろよ」


「え?」


「『え?』じゃねえよ。私の体形が悪いせいで落としたみたいな言い方やめて貰えます? 風評被害ですよ。風評被害」


「イヤ……実際掴みどころがなくて……」


 はぁ……ああ言えばこう言う。最近の若い奴ってみんなこうなの? セゴーがおずおずと伸ばしてきた触手を私は脇の下に巻く。「タコみたいな触手」って思ったけどこうやって見ると確かにタコと違って吸盤はないんだな……しかもなんか粘液でぬらぬらしてるし、掴みづらいは掴みづらいのかも。


 でもだからって普通は獲物を落とさないでしょ。実際さっきの冒険者達は普通に触手で捕まえて食べてたじゃん。こう……確かに胸の大きさじゃ負けてたかもしれないけどさ、男の人もいたし。でも腰のくびれとかじゃ負けてないと思うんだよね。そこは私自信あるのよ。


「……マッピ、マッピ!」


 私が念入りに触手を胴体に巻きつけていると遠くから小さい声が聞こえた。この声は……クラリスさん?


 私が顔をあげるとクラリスさんがターニー君のところに移動していた。そう言えばターニー君触手にやられて倒れてたんだ。それどころじゃなくて忘れてた。


「マッピ、こ、こっちはもう大丈夫。そんなとこで遊んでないで、あ、あなたも早く逃げて」


 は? 遊んでねーんですけど? こっちゃ大真面目なんですけど? 私の尊厳が凌辱されようとしてるのよ。貧乳ネタいじりは心の殺人と心得よ。


「よし、いいわよ、セゴー」


「あっ、ハイ」


 私が合図するとゆっくりとセゴーは触手で私の体を持ち上げる。よしよしよし、やればできるじゃない。触手は私の脇の下からおへその辺りに駆けてぐるぐる巻きになってがっしりと掴んでいる。


 なんだ、やっぱりちゃんと掴めてるじゃない。セゴーは私をゆっくりと掴み上げて、高く掲げ、そして大きく口を……あれ? もしかしてこれ、私食べられちゃう流れ? てか何やってんの私? 今完全に逃げるチャンスだったじゃん。なんで皆教えてくれないのよ!


 ここに来て私はやっと自分の危機に気付いて必死で触手をほどこうとするけど、しかしがっしりとぐるぐる巻きにされていて、とてもじゃないけど人間の力で解けるような代物じゃない。まずい! 本当に食べられちゃうよ!!


 ど、どうしようこれ、何とかしてすり抜けられないだろうか、と思って私は両腕を上げ、万歳の状態になった。


 ぬるん。


「あいだっ!!」


 あれ? おしりが痛い。


 おかしいな。


 今確かにがっしり触手で捕まってたと思ったのに。


 両手を上げたら、こう……ぬるっと……なぜ?


「やっぱり……へそから上に何も引っかかるものがないから……」


 セゴーお前ほんまいい加減にしろよ。



――――――――――――――――



「な……何だか分からないけど、ま、マッピが時間を稼いでくれてる。い、今のうちに遠くに逃げ……」

「だめです」


 マッピとセゴーの不思議なやり取りを見ながら声をあげたクラリスの提案をターニーはにべもなく断った。


 ゆっくりと脚に力を込め、立ち上がる。


「クオスさんを……クオスさんを助けないと」


「ま、まだそんなこと言ってるの!? く、クオスはオリジナルが生きている。危険を冒してまでレプリカントを生き返らせる必要なんてどこにもない!!」


 ターニーは強い眼差しでさっきまでクオスの遺体があった瓦礫の場所を見る。


 瓦礫の陰から、人の体の一部が見える。クオスの遺体はセゴーに食われてはいない。魔石も無事なはず。ならば、まだあそこに行けば彼女を生き返らせることができるはずなのだ。


 ターニーの体にはいたるところにひびが入り、ボロボロであるがもはや彼には自分の体を労わる考えなどない。


「レプリカントからレプリカントへの転生は、同じ魔石を移植するだけだからエイリアス問題も発生しない……迷う理由なんてどこにも」

「その通りデス」


 揉めているターニーとクラリスの間に割って入る人物、アルテグラ。


「なるほど……ターニー君、あなた、竜の魔石を使っていないですネ。

 クラリスさんがそこまで行かせたくない理由は、死んだら復活ができないからですか。

 何故そんなものを作ったのかは分かりませんが……」


 アルテグラが最後まで言い終わる前に、ターニーはクラリスを彼女に渡して持たせた。


「ターニー!?」


「そうだよ……僕は中途半端な存在だ」


 その瞳は何を思うのか、真っ直ぐにクラリスを見つめる。


「ゴーレムみたいに戦えず、体が朽ちれば人の様に死に、しかし人の様に傷が治ることも、成長することもない。不老不死の恩恵にもあずかれず、人の真似をするだけのプログラムが組まれたいびつな自動人形オートマタだ」

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