第46話 MONSTER
「俺に、興味だぁ?」
ドラーガさんは訝しげな眼でしばらくクラリスさんを睨んでいたけど、フン、と鼻を鳴らして彼女をテーブルの上に下ろした。
「あんまり乱暴に扱わないで下さい。仮の身体なんで丈夫じゃないんですから」
そう言ってターニーがクラリスさんの身体を持って、自分の膝の上に乗せた。いいなあ。あんな美少年の膝の上に私も乗っけられたい。最初見た時はクラリスさん凄い不気味な感じだったけど、こんな美少年のオートマタをはべらせてるんだから、意外とまともな感性の持ち主なのかも。
だからこそドラーガさんに興味があるってのが分からないけど。クラリスさんとドラーガさんが対峙した時って基本ドラーガさん戦闘を応援してただけだったよね?
「だ、ダンジョンの中で、ずっと見てたから。ゴーレム達を通して」
あ、そうか。ダンジョンの中で遭遇したゴーレム達って皆クラリスさんが操ってた奴なのか。
「ど、ドラーガは、わた、私が見てきたどんな人間とも違う」
まあ確かにね。私もこんな人見たことないです。
「是非近くで観察して、こ、今後の研究に役立てたい……」
ん? ちょっと待って?
「まさか居座るつもりですか」
怒気を孕んだクオスさんの声。彼女からすれば人形とはいえまたライバルが増えたことになる。彼女の顔がみるみるうちにオーガのように歪んでいく。ひいい、怖い。
「お、落ち着いて、クオスさん。人形相手にそんなにムキに……」
「黙ってろこの
ひどい。乳が無くても女なんですけど。
「お、女の……?」
え、どういうこと? クラリスさん女じゃないの? まさか男の娘とか? っていうか今は人形だからたしかに性別は無いかもしれないけど。
「このエルフさん、女じゃないよね……?」
「…………」
……え? そっち?
ざわざわとアジトの中が騒然とする。
女じゃない……? クオスさんが……?
「な、何言って……え? クオス……こいつ、訳の分からないこと言って……ハハ」
半笑いでアルグスさんが不安そうな視線をクオスさんに向ける。
「……私が自分の事、女だなんて一度でも言いましたか」
マジか。
「え、いや……ええ? ええええ?」
ダラダラとアルグスさんの顔に汗が吹き出し、顎の先からぽたぽたと床に落ちる。
「ちょ、ちょっといい……?」
アルグスさんはクオスさんの肩を引っ張って、自分の部屋に連れて行き、パタンと、ドアを閉じた。
しばしの沈黙。
…………
「でかッ!!」
またしばしの沈黙の後、ドアを開けて顔面蒼白で虚ろな目をしたアルグスさんと憮然とした表情のクオスさんが出てきた。いったい部屋の中で何が。アルグスさんはぶつぶつと何かつぶやいている。私が何があったのか尋ねるとアルグスさんは恐怖に震えながら小さい声で答えた。
「マジだった……むしろ俺達の中で一番の
何があったの。
「うそでしょ! ちょっとクオス!」
そう言って今度はアンセさんがクオスさんの肩を引っ張って自分の部屋に連れて行く。クオスさんはおよそ感情の感じられない無表情のままだ。
やがて同じようにしばしの沈黙の後、アンセさんの叫び声が聞こえた。
「えげつなっ!!」
…………
ふらふらと頼りない足取りでアンセさんが部屋から出てくる。目の焦点が合わず、その瞳孔はふらふらと頼りなさげに宙を彷徨っている。部屋でいったい何が。
「た、たまがっほど大きかぁ……はじめおっき過ぎて、どけあっかぁ分からんやったぁ……」
なんか分からないけど思わず訛りが出てしまうほどナニかが大きいらしい。
「おい、話が逸れてんぞ! 今クオスの性別なんざどうでもいいだろうが!」
ゆうほどどうでもいいだろうか。
「胸も詰め物だったのか……え? じゃあなに? マッピちゃんが入るまでここって私の逆ハーレムパーティーだったってこと……?」
アンセさんはまだ何かぶつぶつ言ってるけど、それを無視してドラーガさんが話を進める。
「興味がわいたからここに来ただぁ? まずもって十中八九スパイだろうが!」
確かにドラーガさんのいう事には一理ある。でも私はそっちよりもクオスさんの事が気になって気になって彼女(?)の股間から目が離せない。本当に……クオスさんが男性……? フェアリーのような可憐な外見に、体のラインも綺麗なボトルラインを描いていて、とても男とは思えない。声も高いし。
「ね、ねえ……本当にクオスさん、男なの……?」
「なんですか。ドラーガさんの言うとおり別に私の性別がどっちだって今どうでもいいじゃないですか。それともなんですか? 性別マウントでも取るつもりですか? どうせ私はドラーガさんの子供は産めませんよ!」
性別マウント、って初めて聞く単語だけど。というかいい加減私がドラーガさんの事を好きっていう誤解を解きたい。しかしクオスさんはそれっきり不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いて黙ってしまった。
「なに? マッピちゃんも見たいの? 意外にえっちな子だったのね……」
「ちっ、ちがっ! そんなんじゃ……」
アンセさんの言葉に思わずどもってしまう。まあ確かにどんなモノなのか見てはみたいけど。
私とアンセさんがごにょごにょやってるとアルグスさんがそれを手で制した。
「ショックではあったけど、確かにドラーガの言うとおりクオスの事は今はいい。ショックだったけど。それより、本当に自分がスパイじゃないって言いきれるのか? クラリス。凄くショックだったけど」
「も、もちろ……」
「待て」
すぐに答えようとしたクラリスさんを制してドラーガさんがテーブルの椅子に座り、クラリスさんを自分の方に向き直らせて目線を合わせた。
「俺の目を見て答えろ。たしかにお前はスパイじゃないんだな?」
「も、もちろん……す、スパイなんかじゃ、ないよ……」
吃音のせいもあるけれど言葉の抑揚からは真偽は分からない。もともと私が他人の嘘を見抜くのが苦手って言うのもあるけど。
ドラーガさんはもじもじと恥ずかしそうに答えたクラリスさんの目をじっと見てた。クラリスさんはますます恥ずかしそうにして、顔を紅くする。ホントに何で紅くなるんだろう。
「俺はな……」
ゆっくりとドラーガさんが口を開く。
「知っての通り大した力は持ってねえ。その俺が生き馬の目を抜く冒険者の世界でどうして長年生き抜いてこれたか、分かるか?」
詐欺師だからでしょ。
「俺には人の嘘を見抜く力がある。面と向かって相手の目を見て話を聞けば、そいつが嘘をついてるかどうかなんて直感的に見抜けるのさ。たとえゴーレムや魔物だろうとな」
ええ? ホントに? だからクオスさんの性別の事も大して驚かなかったの?
「だから俺は嘘はつかねえ。どんなに完璧に見えても、嘘ってのは見る奴が見ればバレバレなのさ」
確かに、ドラーガさんは嘘はつかない。嘘をつかずに人をだますから最悪なんだけど。
「その俺から見て、このクラリスは、嘘はついてねえ。信用できる……」
ドラーガさんに、そんな力が……
しばしの沈黙の後、アンセさんが口を開いた。
「あんたはクラリスを信じたかもしれないけど、そもそも私があんたを信じられないんだけど」
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