悪夢拷問の生配信とご提案


「ねえ、ザラ?」


「あ?」


「ちなみにどういう感じで進行している?」


「ああ。ここに捕まえてからの四日ばかり腕足共に朝方から夕方までかけて根元まで削っては元通りに治療して「はい。また明日、最初から」って感じにやっていますよ?」


「あそ。じゃあ、ここらで切るね」


「いいよな。俺なんかずっと生で見てんぜ」


「大丈夫。あたしも今、猛烈にゲロりそう」


 ゲロりそうもとい戻しそうだ、と一言告げてクィースはザラとのビデオ通話を切る。通信を切断したクィースはシェンデルーに足蹴にされたままのティジスタを見据える。


 蛮族共の生きる国クドモストの王は漂白剤につかったような白い顔でガタガタ震えている。ザンキ。戦国の柱であり、この国一番の最強戦士をただの憐れな虜囚にしたエネゼウルに戦慄しているのがわかる。マナ女王の指示とは思えない。だが、だとして誰の?


 取り留めもとめどもない疑問が溢れる中、硬質な金属の音色が部屋に響く。驚いたティジスタが音の聞こえた方を見るとザンキの残骸を持ってきた女が両手に黄金の籠手を着けて両拳をガツン、とぶつけていた。女の籠手に這う雷電の糸くずたちが散り踊った。


「さて、と。じゃあ、こっちもサクッとけじめつけますかね? ね? おっさん?」


「け、けじめ……っ?」


「うん。うちの鎮守様につき纏いよろしい書を送りつけてきやがっていたよね? アレについてさ、聖上、フェネア様ってばかなりお怒りだったんだけど~そちらの顔を一応立てていたんですよ~。なのに、エネゼウルに侵攻するとかどんだけ恥知らずなわけ?」


「ひ、ひぃ……っ、ひ、ひぃいいい!」


「あーそうそう。お許しを~、とかこの期に及んでしなくていいからね。ってかザンキが肩代わりしているしさあ。そういうの要らないってーか、むしろ訊きたいなあ。てめえの土下座にいかほどの価値がありますか~? とかそういう感じー? マージーでー」


 わざとらしく間延びしたような口調で言うクィースであるのだがそれが逆に怖い。間延びの分だけ怒りの目盛りがちょいちょいあがっていっているようなそんな気がした。


 くすんだ金髪を三つ編みにして束ね、左肩にかけている女の柔らかい桃色の瞳の奥に弾ける雷光が恐ろしい。ウッペの柱は鷹に虎と猛禽と猛獣揃いだったがこの女もそう。


 一見可愛らしい見てくれ。なのに、根底にあるのは獣のような威圧感と気迫。見つめられるだけで心臓に悪い。しかもけじめをつけろと言ってきている。だが、なにをすればいいのかわからない。土下座では足りないと言う。それ以上の謝意をどう、表わせば?


 女はしばしの間、執行猶予よろしく待っていたがティジスタが動かないので頭痛を堪えるように頭を抱えてひとつ重要なことを教えてくれた。それこそおぞましいことを。


「ちなみに、さっきの拷問映像と音声は戦国全土各地、人目につく上空で上映中だ」


「え?」


「ザンキが虜囚になって死ねない拷問にかかっているのが全土に知れ渡るのは時間の問題ってこと。つまり、今までザンキに怯えて手だししなかった国もここに侵攻してくるだろうね。だって怖いのもういないもん☆ ついでに言えば無能なてめえしかいねえし」


「は、はひ、はひぃ……っ」


「そーいうわけでご提案。今すぐ南の国々、特にニタに領土を返して修繕費とか慰謝料とかそういうの全部援助だしてくれればウッペここに侵攻しないって聖上から伝言」


 クィースの優しい提案にティジスタは迷わず首を縦に振っていた。残像が見えそうな勢いで振る。涙と鼻水を垂らして縋りつこうとするが、クィースは丁重に遠慮し、距離を取りついでに部屋へ入ってきたウッペ兵たちに合図。すぐ対応していく兵は王を捕縛。


 ティジスタはきょとんだ。意味がわからない。どうして拘束される? だってウッペはここに侵攻しないと言った筈。なのに、どうして? ティジスタがはてなのお花に囲まれているのを見てクィースはくす、と小バカにした笑みで王を窓辺に連れていかせる。


 連行された王が見た窓の外、城下町は阿鼻叫喚の様相を呈していた。クドモストの守備兵たちが次々斬り捨てられ、民が逃げ惑う。城下町に溢れる兵の装いは色とりどりで様々な国が兵を我先にと送ってきているのがわかった。つまり、王城陥落は時間の問題。


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