冒険者ギルド
第14話
冒険者ギルドがあるという町まで一泊二日の道程だった。流石に600㎏から700㎏もあるイノシシのバケモノを4体分運ぶには荷車も4台必要で、馬ではなくで牛に牽かせたのもあって移動速度はゆっくりとしたものだったけどな。
道案内させたゴツイ男は寝込みを襲う事もなく、終始ビクビクしていた。俺が刺しても斬っても死なない上に、このバケモノを素手で叩き潰したせいだろうが、もしかしたらジェンマ先生やちびっこも
ちなみにあの集落からここまで、途中で立ち寄るような集落や建物もなく、ただ平原が広がっているだけだという。そしてこの平原には、やはりこのイノシシのバケモノのような魔獣が群れを作って縄張りを持っているんだそうだ。
しかし、このイノシシの死骸を運んでいるせいなのか、他のバケモノが襲ってくる事はなかった。案内しているおっさんの帰りは知らん。
「旦那、見えてきました。あれが冒険者ギルドがある町、カーブレです」
太陽が中天からやや傾きかけた頃だろうか。まだ夕方と呼ぶ時間には早い午後、石を組み上げた防壁が見えてくる。背の高い建物の屋根なども見える。
「そろそろベッドで眠りたい」
荷車を牽く牛の背中にべたーっとうつ伏せになりながらちびっこがそう宣う。お前は歩かずに楽してるじゃねえかと思うが、ベッドで眠りたいのは全面的に賛成だし、何なら美味い飯も食いたい。そして風呂だ。
「おい、おススメの宿とかあるのか?」
「いえ、あっしらの村は貧しいので、宿に泊まるなんて滅相もねえです。そういうのはギルドで聞いてもらった方がいいです」
なるほどなあ。追剥しなきゃやべえくらいの貧乏な村の住人じゃ、そりゃそうかも知れんな。
「じゃあ冒険者ギルドまで案内してくれたら解放してやる。ああ、あとな、俺達の事を誰か探しに来たり、聞き込みに来たりしても、絶対喋るな。いいな?」
「へ、へい……」
そこら辺を言い含めておかないと、あの聖都とかの騎士共が追ってくるかも知れないしな。
「ん。タクトにしてはナイス判断」
「おお、ありがとよ」
相変わらず牛の背中でぐでーっとしてるちびっこがぐっ! と親指を立ててくる。
それに比べてジェンマ先生はさっきから浮かない顔だ。
「先生、どうかしたんスか? 浮かない顔して」
「え? ええ、ごめんなさい。子供達の事がちょっとね」
ああ、そっか。取り敢えず俺達の危険は去ったけど、そうなると教師としての本分が出てきちゃう訳か。でも、今の俺達には何も出来る事はないと思うぞ。
「先生。その事はあとでゆっくり話す。今は今日のベッドと食事が優先」
「そ、そうね! ごめんなさい」
ジェンマ先生に気合を入れ直して、俺達は街中に入って冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドはすぐに見つかった。町の中心部にあり、三階建ての大きな建物だった為に凄く目立つ。大きな看板には剣と盾がデザインされている。
「ん。テンプレ」
ちびっこがボソリと言う。テンプレってあれだろ? テンプレートを略したヤツだろ?
「お約束ってヤツ。多分ギルドに入ったらガラの悪い冒険者に絡まれる。そこまでがテンプレ」
へえ~、コイツ天才だって言うから勉強ばっかしてるんだと思ってたけど、意外とそうでもないんだな。
「知識欲を満たすものはどにでも転がっている」
ちびっこはそう言ってドヤ顔だ。うん、ガチの天才に言われると、なんかグウの音も出ねえな。つか、予め起りそうなテンプレとやらを聞いておこうか。
「どんなケースが想定されるのかしら?」
おっと、俺に先駆けてジェンマ先生がちびっこに訊ねた。
「うむ。まずはチンピラっぽい冒険者に絡まれる」
ほうほう。
「魔力測定装置を壊してしまう」
うん?
「試験官との模擬戦で圧勝」
なんで!?
「なんでと言われてもそれがテンプレ。しょうがない」
「そうか。まあ、入ってみれば分かるか。おいおっさん、そのイノシシの番を頼むぜ。なんだかやたら注目されてっから強奪とかされねえようにな!」
この町に入ってから、やたらと視線が痛い。俺達よりも、荷車に乗ってるブツの方がメインだけどな。早いトコ売りさばいて、現金化したいところだ。
俺達は村から連れてきたおっさんを残し、ギルドの扉を開いた。
うわ……
刺さる! 視線が刺さる!
なんだこの場違いなガキ共は。あの姉ちゃんイカすじゃねえか。なんでここにお子様がいるんだ?
そんな心の声が聞こえて来そうだ。
「向こうみたいね」
そんな視線に気付いていないのか敢えてスルーしているのか、ジェンマ先生は『総合案内』とかいう立て札がある所を指差して歩いていく。なんだ、ちゃんと字も読めるじゃん、俺達。
その総合案内窓口には、なかなか美人なお姉さんが座っていた。
「カーブレ冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」
営業スマイルでそう語るお姉さんに対応するのはちびっこだ。テンプレを熟知している彼女に任せるのは俺もジェンマ先生も異論はない。
「冒険者登録をしたい。あと、魔獣を買い取って欲しい」
「はい、冒険者登録はあちらの窓口になります。魔獣の売却は冒険者登録をした後の方がお得ですよ?」
窓口のお姉さんによれば、魔獣を倒したという実績とか、ギルドに対する素材の売却は冒険者の査定にプラスされるだけではなく、買い取り価格も一般人よりギルド構成員の方が優遇されるらしい。
なるほど。じゃあ先に登録しちまうか。
「ところで、持ち込まれた魔獣というのは?」
「マンモスボアを丸ごと4体」
「……はい?」
「マンモスボアを丸ごと4体」
ちびっこの言葉に、窓口のお姉さんは口をあんぐり開けて固まってしまった。そして同時に、ギルドの中がざわついた。
そして一組の男達が俺達に近付いてきた。どいつもこいつも厳つくて、剣呑な雰囲気を隠そうともしない。どうやら4人組のパーティってやつらしい。みんなが皮鎧や剣や斧みたいので武装している。
日本じゃ銃刀法違反なんだが、つくづくここは異世界なんだって実感するわ。
「おいおい、マンモスボアだって? バカ言っちゃいけねえなあ。アレは1体倒すのだって中級冒険者のパーティが共同で当たらなくちゃならねえんだ。それをお前らみたいな女子供が倒せる訳ねえだろぉ?」
おお、これがテンプレ其の一、チンピラ冒険者に絡まれるってやつか!
見た目はチンピラよりずっとおっかねえけどな。
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