英雄の産声
「ふぅ、大体三時間くらいたったかな・・・?漸く終わりが見えてきたよ」
そうサリスが告げる通り、先程の凄惨な光景からは想像がつかないほど、殆ど綺麗な街並みへ戻っている。
死んだ者を焼き、弔いながら片手間に都市の復興、そして生存者がいれば回復───それを簡単そうに彼女は行っているが、常人ならば脳が焼き切れてしまうだろう。
「ん、よし・・・終わったぁ」
肩をぐるぐると回し、疲れを癒すようにため息を吐くサリス。
しかしそれでも、体内に保有する魔力にはまだまだ余裕があった。それこそ、莫大な魔力を消費して発動する
「じゃ、さっさと帰ろっと・・・死臭が付きでもしたら大変だ」
そう、どこか覚めた言葉を吐くサリス。だが確かに彼女にとっては、これ以上ここに止まる必要はない。
であれば、無駄なことを嫌う彼女からすれば、すぐさま
薄情という訳ではない。
これ以上手を貸すと、民衆がもう一度と助けを乞おうとする可能性があるからだ。
余計な御世話は民の増長を増させるばかりである。彼女はそれを幼い頃からよく学んでいた。
故に彼女は言うが早いか
業ッ!
と、とてつもない悪寒と恐怖が、サリスを襲う。脳内に浮かぶのは───。
─死。
──死死。
───死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。
死、“ただそれだけ”───いや、死ぬこと以外赦されない。そんな得体の知れない『ナニカ』。
身の竦む恐怖を与えるだけでは飽き足らず、死の瘴気となって、物理的な危害を与えようとする。
しかしこと幸いにも、サリスの体には濃密な魔力の塊が渦巻いている。そしてそれが、サリスに危害を与えようとするナニカから何とか防いでいるという状況だ。
とは言えそれも時間の問題だろう。
「対処法は限られてるねぇ・・・」
一つはこのまま死の瘴気を封じ込める。二つ目は死の瘴気を片っ端から浄化していく。
そして最後は───
「問題の大本を潰す、かな?まぁ正直、この死を振り撒いている瘴気を浄化していっても、封じ込めても、その死を振り撒いている瘴気を生み出す存在が生きているなら、問題が解決したとは言えないしなぁ」
すらすらと饒舌に語るサリス。結局は「よし、やっぱり問題の原因を潰しにいこう」と展開した『
だが案外呆気ないことに、その問題の原因とやらは簡単に見つかった。
余りにも死の気配が濃く、探知が容易だったからだ。
「・・・だけどまさか、ボクが助け損ねた子だったとはね。けどまぁ、あの咆哮を間近で食らって生きてたのか」
サリスの目の前では一人の、少年とも少女とも言えるような美しい顔立ちをした子どもがいた。確かに体は華奢で、吹き飛ばされた衝撃か、身体中のあちこちに擦り傷や切り傷が痛々しくその存在を主張していた。
また腰まで伸びた髪は
しかし、だ。汚い身なりをした子ではあるが、磨けば光りそうなものを持っていた。
だが、この子が犯人であることは間違いはない。しかしどうも、サリスは釈然としなかった。
何故こんな子どもが、あんな濃密な死を振り撒いていたのだろうか?
そもそも、こんな年端もいかないような子ども程度にあの死が振り撒けるのだろうか?
「・・・回復魔法でも掛けてみれば収まるかな?」
そういい、試しに
「んなっ!?お、おいおい、弾かれるって・・・」
その方法とは、掛けられた魔法に込められた魔力の何倍も大きな魔力で、無理矢理魔法の効果を無効化する。
故にサリスは、
「
本来、
人の魔力量は産まれたときから決まっている。
それなのに、明らかに目の前の子供は、自分の魔力量を越える魔力を吸い続けても、何事もないかのように眠っているのだ。
普通の人間ならば、身に余る魔力に体が耐えきれず、爆発四散してしまう(年に数人死者が出ている)。
だからこそあり得ない。
しかし、そんな非現実的なことを、自分の十分の一も生きていないような子供がけろりとこなしてしまったのだ。
「───面白い」
当然、沸き上がるのは興味の感情。
長年揺らめくことの無かった感情の波に、一つの大石が投げ込まれたかのような、そんな激しい探究の衝動がサリスを支配する。
どうしようか。
このまま連れ帰ってもいいのだろうか?
いや、もう連れ帰ってしまおう。
この子ならボクの培ってきた魔法、魔術の真髄を引き継げる───サリスは直感ながらそう確信した。
例えそれでこの子の買い主に文句を言われようとも、後を継がせると言えば閉口するだろう。
「よし!そうと決まれば連れて帰ろっと!───あ、そうそう、このいかにも怪しげな薬も回収しとかなきゃね・・・」
少年が握りしめていた袋包みに、飛び散るように散乱していた薬を詰めてローブの中に入れると、そのまま少年を抱きあげ、
────起。
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