第五話
「……」
「大丈夫ですか。お嬢様」
リアはそうアリアを気遣ってくれるが、当のアリアはその気遣いに答えられるほどの余裕なんて全くない。
「な、なんでこんな事になったんだっけ」
そう尋ねると、リアは「それは――」と冷静に答えを口にする。
「お嬢様が『国王陛下、王妃陛下にお会い出来る様な人間ではない』とお答えになったからではないでしょうか」
「……そうね。確かにそう書いたわね」
確かにアリアはそう書いたが、それはマナーや服装。その他の諸々を含めてアリア自身が総合的に判断した結果である。
「でも、考えてもみてよ。私はつい最近までお茶会にすら行った事のないマナーの基礎中の基礎をようやく身につけたような人間よ。そんな人間が国王陛下や王妃陛下と共にお茶会だなんて……」
そう言いつつアリアは「はぁ」とため息をつく。
「本来であればあんな返事……しちゃいけない事だって事は分かっている。分かってはいるのだけど……」
一応、マナーの先生には「どんなお茶会に出ても問題ない」という評価は貰っているモノの、やはりいつもの環境とはあまりに違い過ぎる。
だからこそ、その雰囲気に飲まれて緊張し過ぎた結果。自分が何か粗相をしてしまいそうで……その不安からアリアはそう返事をしたのだ。
「しかしキュリオス様は諦めなかった……と」
「うん。それに多分。殿下は私がお茶会でもめたのは服が原因で、マナーの面では問題はないと思っているみたいだから……」
だからなのかアリアの返事を受け取ると「服装は気にしなくてもいい」といった主旨の手紙が返って来た。
「しかも……」
その手紙には『じゃあ、お茶会じゃなくて外に出かけに行かない?』と言った提案が書かれており、その「お出かけ先」には『魔法図書館』が含まれていた。
そしてその続きには「そこには王族しか見られない特別な書物があるし、それを見に行こう」という事も書かれていた。
「……」
正直、最初はあまり気のりはしなかった。
それはやはり「攻略キャラクターであるキュリオス王子とあまり関わらない方が良いだろう」という考えからなのだけど……。
実はここ最近。本格的に魔法を学び始めたアリアは魔法に強い興味があった。
それに『王族のみ見る事が出来るモノを見られる』なんて事を聞いてしまうと……どうしても湧き出る好奇心には勝てない。
ここまで来たら「自分の好奇心」と「王子と関わる事により生じるリスク」の二つを自分の中で天秤にかける事になるのたが。
もしかしたら魔法図書館に行って、普通の人は見る事の出来ない貴重な書物を読む事によってゲームだけでは分からなかった新たな発見があるかも知れない……。
そう考えたら……アリアは考えに考え抜いて、ペンを取って「お忍びという事でしたら」と返事をした。
「そろそろ覚悟を決めましょう。待ち合わせは大きな噴水の前……でしたね」
「うん。あ、そうだ」
アリアはリアの確認の言葉にうなずくと思い出した様に自分の前に手を出し「ふぅ」と軽く息を吐くと……。
「どうされましたか?」
リアがそう尋ねたと同時にみるみる内にアリアの特徴的な赤い髪が目立たない黒い髪へと変わり、目の色も青みがかった黒へと変わっていった。
「……!」
そのあまりの変貌に、いつも冷静で物静かなリアが珍しく目を見開きながら驚いて……固まってしまった。
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