第四話
アリアは自分が『モブ』だと分かったところで特に何もしなかった。
いや『モブ』だからこそ、何もしなかった……と言う方が正しいかも知れない。
しかし、コレが
正直こうして悠長に『お茶会』に向かっていないと思う。多分きっと……それこそどんな手を使ってでも『お茶会』に来ない様にしていただろう。
なぜなら、この『お茶会』で王子は主人公と出会い。そして『悪役令嬢』と婚約してしまうのだから……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そもそも庶民であるはずの主人公がどうやって王族である王子と出会うのか……それは彼女が父親の仕事場について行ってしまうところから始まる。
結論だけを言ってしまうと、彼女の父親は元貴族で今は
そして、貴族の頃から友人だった陛下の計らいで王宮に荷物を卸していた。
まぁ、その父親は本編のストーリーが始まる前に亡くなってしまうのだが、今回その辺りは割愛させてもらう。
それはさておき、小さい頃の主人公はとにかく活発な少女で、ある日王宮へと向かう馬車に一人で勝手に乗り込み、みんなに黙って王宮までついて行ってしまう。
そして今まで見た事のないきらびやかな光景を目の当たりにし、興味を引かれた彼女は止まっていた馬車を降りてしまう。
「あ、あれ?」
振り返った時には馬車はその場にはなく、彼女は取り残されてしまい、孤独感から思わず泣き出してしまう。
「君……大丈夫かい?」
そんな彼女に声をかけたのが……キュリオス王子である。
そしてキュリオス王子に連れられて王宮を探索し、最終的には王子に連れられて父親と共に帰る。
だが、この探索をしていた「束の間の時間」が思いの外楽しく、王子はずっと覚えており、魔法学校で二人は再会を果たす――。
コレがキュリオス王子ルートの冒頭の話である。
「……」
正直、アリアとしては「泣いている主人公に王子が話しかけた時に出て来るスチルが最高!」と言いたい所ではあるが、それはあくまでアリアがプレイヤーの立場だった時の話だ。
そして実はこの『お茶会』に参加していた『悪役令嬢』はキュリオス王子に一目惚れをしてしまい、結果として『悪役令嬢』は親と自分の家の権力をフル活用して「婚約者」になる。
「……」
まぁ『モブ』であるアリアには直接的には関係ない話……と言いたいところなのだが、実はそう簡単な話ではない。
なぜなら、アリアは『モブ』故に情報が少なすぎるからだ。
コレが主人公や『悪役令嬢』であればまだいい。
なぜなら中心人物だからこそ、細かいバックボーンやストーリーの流れからある程度のイベントなど予測が出来るからだ。
しかし、コレが『モブ』の様な「A」や「B」といった名前もなく簡単に分けられてしまう様な存在だった場合はどうだろう。
生まれどころか経歴など細かい情報は一切出て来ない。コレでは対策のしようがない。
それに加えてアリアは貴族の中でも位が低い。
たとえ位の高い人について「長いものに巻かれた」としても、それで上手くいくという保証はどこにもない。
下手をすれば面倒事に巻き込まれたり、位が低い故に上手く利用されてしまったりしてしまう可能性も十分考えられる。
「……」
そこまで考えてアリアは考えるのを止めた。なぜなら完全に手詰まりとしか思えなかったからだ。
しかし、そこでアリアはふと思った。
どうせ『モブ』だというのならば! 物語に関係のない『モブ』ならば! 誰にも気が付かれないほど目立たない様に行動をすれば……最低でも不自由な生活を送る事はないだろう……と。
しかし、実はそんな平穏を願うアリアには『前世の記憶』以上に誰にも言っていない大きな秘密……いや『爆弾』を抱えていたのだ――。
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