終末を超えて~spirit world~
風瑠璃
序章
歴史
その世界は、多くの人が溢れていた。
人は、自分たちこそが種の頂点であるとして、生き物を喰らい、自然を壊し、自分たちの住みやすい環境へとその場所をゆっくり組み替えていった。
長い年月。多くの苦労を重ねられて世界には平和が訪れていた。争いがあり、不当に奪われた命に涙した人も少なくない。だけど、世界的に見れば些事であり時間はひたすらに前へと進んでいく。
機械文明。科学の発展は、人類史における最高の成果と言える。
異端とされるような研究。未開発の地域への探索。己の好奇心が求めるままに世界は探索され尽くし、知識人はこの世全てを手に入れたような全能感に酔いしれた。神など居ないと宣(のたま)い、自らが一番偉い存在であると誇示する者が出てきた。
富や名声を手に入れ、ありとあらゆる物を堪能した彼らが求めたのは死ななず、老いることのない肉体だ。
自分たちならばそれを成し遂げられる。そうして生み出された不老不死の研究は、非人道的な行為であっても承認され、新たな人種を作り出すほどになった。見えない。分からないとされた力にも目をつけ、それをコントロールする術も見出し、寝食を忘れて研究に打ち込んだ人たちの努力は、たった一人の魔女によって打ち砕かれる。
魔女。それは、研究とは別のところで現れた不老不死の存在。魔法としか思えない力を駆使して、研究を潰し、終末戦争と呼ばれる大戦にまでもつれ込ませた大罪人。
彼女の力で、数億人とも言われるほどに肥大化した人類は半分以下にまでその数を減らされ、新たな人種が世界に広まった。隠れ住んでいた種族も表に現れ、混迷の時代が訪れた。
多くの命が散り、救いなどないと思われた時代が終わりを迎えたのは、唐突なことだった。
人類を先導していた人たちの消失。それが契機となり、争っていた人々は次第に自分のところで元の暮らしをするようになった。
世界に再び平穏が戻ったのだ。
だが、世界が受けた傷跡は癒えることはない。失った物はあまりにも多かった。苦しみはあまりにも深かった。
誰も救われなかった終末戦争。その果てにある物語が、今。動き出す。
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