(酒に酔った勢いで)勇者と聖女を追放し(てしまっ)たが、二人が抜けた途端最弱パーティになりました。後悔してももう遅い(血涙)

河内三比呂

第1話 追放しちゃったよ、グシャート君

「本日をもって、勇者テルスと聖女スセをこのパーティから追放する! 異論は認めない! ヒック!」


 この発言が全てを変えてしまった。あぁなんて、僕は愚かだったのだろうか──。


 ****


 ことの発端は数時間前にさかのぼる。

 この日僕達"勇者パーティ"は、大きなクエストを終わらせて昼間から酒場に行くことにした。その提案をしたのは……僕だ。


「全くぅ~! グシャートぉ? アンタ、リーダーだからってぇなんでも一人で決めすぎよぉ?」


 パーティメンバーの一人、召喚士サモナーの青年レナジェが僕に苦言をていするのはいつもの光景だ。


「まぁまぁ、いいではないかレナジェ! 今回のクエストの報酬はとても良かったし、たまになら、な? それになによりリーダーの言葉だからな! 俺も皆も呑もう!」


 悪戯っぽく笑う勇者の青年テルスに、聖女のスセが続ける。


「で、ですがテルス様! わたくし達は曲がりなりにも勇者パーティです! 醜態を晒すようなことがあっては……!」


 この光景もいつものことで、大体テルスが僕に賛同しスセが不安げに言葉を吐く。そして、いつもテルスがスセを抱き寄せ、こう呟くのだ。


「まぁまぁ、スセよ。これもだ! な?」


 。天啓を信じる聖女にとって、この言葉は弱点だ。まぁ正直こんな言葉で言いくるめられる聖女、チョロすぎでは? と思わなくもないがそれが彼女の性分なのだから仕方ないか。


「もう……テルス様ったら! こうなったらわたくしも最後までお付き合いさせていただきますからね!」


「それで良いのだ! さぁリーダーよ、どこの酒場にする?」


「あぁ、あそこにしよう!」


 僕が指し示したのは、この町では一番の大きな酒場『犬の吠え亭』だ。行き場所が定まり、僕達は意気揚々と中へと入って行った。


 ****


「ではー! 悪竜クエスト成功を祝して、乾杯!」


 僕がジョッキを高らかと上げて、乾杯の音頭を取る。それに合わせて他の三人もジョッキを掲げる。僕は気分よくこの酒場一番の酒を吞み込んだ。


 それからどれくらい経っただろうか? 僕とテルスがある話題について議論を始めたのは。


「だから! ゴブリンは雑魚なんだって! 僕は村に来た奴らを全滅させたんだぞ! この盾と剣しか取り柄の無い僕がだ! 最弱モンスターは間違いなくゴブリンだ!」


「いいや違うとも! ゴブリンは強い! 群れで来たりした時には知略も駆使してくる! それに比べてスライムはどうだ? 知性も低いしなにより攻撃力に乏しい! 最弱はスライムだとも!」


 そう。僕達が言い争っていたのは、『一番最弱なモンスターはなにか?』という、ものすごくどうでもいい事柄だった。だが、酒の勢いもあって僕達はヒートアップして行った。


「も、もう! お二人ともおやめくださいまし! 特にグシャート様、ほんっとうにおやめください!」


 ついにケンカ腰にまでなった僕達をスセが止めようとするが、それにすら腹が立ってしまった僕はのだ。


「本日をもって、勇者テルスと聖女スセをこのパーティから追放する! 異論は認めない! ヒック!」


 この、とんでもなく愚かな言葉を。

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