12歳のお茶会デビューから3年。


今では『令嬢仕草』も板についていて,お澄まし顔でお茶を飲む姿まで様になっている…はず。正直,自信は無い。


今の季節は雪解けが始まったばかり。

もう少し…寒さがもっとやわらぎ,春になったら

わたしは『学園』に入学することになっている。


そう,中世ヨーロッパ風の世界なのに

日本の創作物だからか入学も進学も春からなのだ。


たいして詳しいわけではないが,

確か欧州の方の学期はじめって9月とかだった気がする。

有名な魔法学校の物語が,夏休み明けで進級してたし…。


作者かシナリオライターか,設定や時代考証が甘いとしか言えない。


まぁ、純日本人の中身(アラフォーおひとり様)には馴染み深い区切りなので

覚えやすくて助かっているけどね。


春先が年度始めなだけでなく

和風なイベントが洋風にカスタマイズされていたりもしてて,

雛祭りみたいに女児が生後直後に人形贈られ,それを飾る日があったり,

七夕や夏のお祭りに花火,お月見に似た逸話の催しも存在している。


クリスマスは,この世界の最大宗教の主神の女神さまの誕生月として

一月ひとつき中お祝いムード。

翌月であり翌年になる新年は,それはそれとしてお目出度い。


バレンタインは現代ナイズされていて,男女や関係性問わず贈り物をする日で

愛情も友好も感謝も尊敬も何もかもを込めてやり取りされる。


思いつく限りの現代日本解釈のイベントが,

中途半端に中世ヨーロッパ風に直されてるので違和感が半端ない。



そんな中途半端に日本的なイベントだとか,都合の良い教育課程を知り,

今では確信を得るにまで至ったことがある。


この世界の舞台候補だ。


最終的な候補としてあった2つの舞台。


1つ目が大本命の『学園』で

もう1つが,王様か王太子を巡っての『後宮バトル』


ただ,この世界に根付いているイベント事が

どこか子供が,特に女の子が喜ぶような内容だったり解釈になっていて,

大人向けの退廃的だったり少しエッチな雰囲気とかが微塵も感じられない。


あくまで微笑ましく,起こる恋愛イベントも

手を繋ぐか触れる程度のキス止まりな感じの空気がある。


一応,R-18系のゲームやマンガ,小説も触れたことがあるが,

同じイベントなのに受ける印象や空気が全く違うのだ。


世界の異物であり,俯瞰的に見れる転生者だから感じる違和感が根拠になるけれど,

実は結構な確信がある。


ただ,まだ確定では無いので『後宮バトル』も視野に入れて油断はせず

『学園』でも『量産型貴族令嬢モブ』計画は続行する予定だ。



16歳になる貴族の子たちが通う事になる『学園』は王都内にあり,

同じく王都にある公爵家の別邸でわたしは春からは一人暮らしだ。


もちろん,メイドや侍女さん,侍従さんに警護の人はいるが,

家族から離れて住む事には違いはない。


王都内の別邸は,宰相として王城に務める父用の屋敷だったが,

事あるごとに遣いをよこし呼び出すのを面倒がった国王が離宮を与えたので,

普段はそちらで生活していた。


4〜5日住み込みで連勤し,2〜3日まとめて休みを取って本邸に帰るので

ますます別邸の存在は忘れられていたのだ。


ほとんど放置されていた別邸だが,

管理はしっかりされていて家屋への手入れは必要なかったが


内装も装飾品も父好みで設えてあるので

『年頃の娘の住まいに似つかわしくない』と母が言い出し,

全てわたし好みにして良いとか言ってくれたのは嬉しいが


いくら勝手に決めても良いとはいえ,公爵家の別邸。

まんま小娘仕様にするわけにもいかず

なけなしのセンスやらこの世界の流行りやらを勉強し,必死に考えた。


公爵家の令嬢がお住まいになる屋敷ということで,

調度品の全てがオーダーメイド。

速度アップの魔道具も,駆り出された職人の数も盛り盛りの特別料金。

1年かけて,デザイン決めから制作,微調整を重ねて仕上がったのは昨日のことだ。


郊外にある公爵家の本邸と王都内の別邸を一体何回往復したことか…。

もっとも一番疲れてるのは,その度駆り出される馬車の御者や馬,お供の人たちだと思うけど。


お仕事とはいえ本当にお疲れ様です。


まだ引っ越し自体が残っているが,荷物類は朝イチで馬車で出発し,

今頃は別邸勤務になるのメイドさんや侍女さんたちが総出で荷解きしているはず。


その辺りを任せきりにしてしまって心苦しいけれど,

今は全ての準備を終えられた開放感に浸らせて欲しい。


そう思って,お茶にしようと思い立ったのは良いけれど,

何で庭でやろうと思ったのか…

防寒着を着こませられた時点で気がつくべきだったのだ。


吐いた息も白く,防寒着までばっちり着込むレベルで寒いと言う事実に!!


外用の暖房器具まで引っ張り出して準備してもらってるのを見て後悔したけれど,もう遅い。

ガゼボ内は空間を仕切る魔法によって保護までされて,

いつでも温かいお茶が飲めるように簡易のコンロまで設置されている。


全て,お嬢さまがそうしたいと言ったから…。


これって公爵令嬢のワガママになったりしないよね?と,不安になり

着込んで暑い背中に汗が流れる。


ちょっと怖くなってメイドさんや侍女さんの顔色を伺おうと,

庭の景色を見るフリして首を回らせば

領地に行っていたはずのリュカスがこちらに向かっていて,そのままスルリと何事もなく差し向かいに座る。


冬の間中は公爵家の領地ゲイルバード領にいるはずなのにどうしたのか問えば


『例年通りに暖かくなってから帰っては,別邸へ越してしまう姉上のお見送りも出来ない』

『だから雪解けが確認されてすぐ朝イチで出発したのだ』


12歳の変声期前の可愛いショタボイスで照れ照れ話す姿は,可愛いの一言。

貧相な語彙力のせいでそれしか言えないのが悔やまれる。


3歳下の可愛い弟・リュカス。

父親に似たわたしとは違い,リュカスは母に似ている。


妖精の様な儚い系の見た目で,中身は鋼の化身の母と

漆黒の髪と悪の参謀風な顔なのに,感激家ですぐ泣く父。


髪色は父だが顔の作りは母に似たリュカス。

優しげな風情に黒々とした硬質な髪は合わない気もするが,

いずれは公爵家を継ぐのだから,多少はお堅い雰囲気があった方が舐められまい。


ちなみに,わたしはカラーリングも顔の造形も父型だ。

ただ立ってるだけで悪役っぽい見た目をしている。



わたしは,実はリュカスも攻略対象候補と考えている。


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