王都の中心にそびえる王城は,

真っ白な壁が太陽光を反射し,金色の屋根の高い塔がいくつも並ぶ

まるで童話のお城のようだった。


堀と城壁に囲まれたこの城は政治面を担う国の顔としての『本城』と

現王と正妃,その直系の子供の住まう『後宮』があり

広大な敷地に点在する離宮のいくつかが,側室に与えられている。


その他,貴賓用の建物もあるので『城』の範囲は広大だ。


住み込みで働く人用の家屋群も城壁内に内包するので,

1番外周の城壁から王城への道のりは町一つ分向こうと言った感じだ。



今日のお茶会より,貴族の子供は親の付き添いなく行動できるようになる。


『社交界デビュー』が夜会などの夜遅く(あるいは夜通し)出歩いていい大人になったと証明する成人の儀式だとすると,

王城の王家主催の『12歳のお茶会』は,子供達が少しの自由を得るための儀式だ。


とは言え,どれだけ位の低い貴族だろうと侍女や護衛といった『お供』が着き,

完璧に1人での自由行動は出来ない。

店員への受け答えも全て『お供』が行うので,現代人の感覚としては『自由とは?』とも思うけれど…。


キレイに整えられた庭園に案内され,入り口のアーチを潜ると同時に

ゲイルバード公爵家ご令嬢わたし』の到着が高らかに宣言され,

バラバラにお喋りをしていた子供たちが一斉にこちらを向いた。


庭園の緑の中,淡い春色のドレスを纏った令嬢たちと

慣れない礼装に居心地悪そうにする令息たち。


初めての場所で,初めての『大人』のいない空間で

居心地悪そうに落ち着かない子や,緊張で泣き出しそうな子,

逆に興奮して顔を真っ赤にしている子など,様々な表情の子供たちが

順に公爵令嬢わたしに挨拶をしにくる。



入場の順番はしっかり管理されており権力ちから順になっていて,1番の最後に(身分問わず)主催者が登場し開始される。


今の時勢で王族を除けば『ゲイルバード家我が家』が一番の権力ちからのある家門なので,臣下のくらいではわたしが最後。


このまま主催者である『第3王子』の到着まで,挨拶したり談笑をして場を持たせ

仕切るのが貴族のマナーでありルールだ。


こうやって,その場の仕切りが入れ替わることで

どれだけ威張り散らしても,すぐ後にさらなる権力者に鼻っ柱を折られる事になると躾けられ,身分や権力ピラミッドを刷り込まれる。


身分制度がある時点で,現代の人権派には許し難い状態かもしれない。


しかし,この区別や棲み分けによる統制によって,

『魔術』なんて攻撃手段のある危険な技術が誰でも行使できる世界を

安全に運営できているのだと考えている。


(まぁ『管理する』側の貴族身分だから思うのかもしれないけどね…)


平民だったらまた違った考えになったかもしれない。


現状,1番の権力ちから持ちになったわたしに,順に挨拶がされる。

身内や同派閥で幾人かで来たり,個人で来たりとまちまちだ。


子供らしく少しつたない挨拶もあれば,大人顔負けの子もいて,

魔力量や家庭の教育によるオツムの出来の差がすでに現れ始めている。


厳正なふるい掛けが始まっていることに気がついている子は

果たしてどれだけいるのか…。


嫌がって逃げ出してばかりの子,親も諦めたか放置された子

イヤイヤでも表面上は学ぶが,全く身に付かずもたつく子


子供同士だけでなく,このお茶会会場で働く王城の使用人が

子供とその向こうにいる親を選定評価しているのだ。


かく言うわたしも,子供たちを見定めていて


『この子,熱血タイプの攻略対象っぽい!!近づかんとこ』とか

『この見た目は絶対ヒロイン!!近づかんとこ』と


今後を見越しての人物評価を下している。



しばしの談笑の後,主催者である第3王子の来訪が告げられ,

入り口に向かい一斉に礼をする。

1番先頭は筆頭公爵令嬢わたしで,開会宣言の後に1番に挨拶する役目がある。


変声期前の少年の声がかかり,下げていた頭をあげる。


柔らかな毛質の金髪がふわりと風に揺れる碧眼へきがんの第3王子は,

絵本から引っ張り出したような『ザ・王子』(『ジィ・王子』??)で,

緊張と興奮を必死に抑えながら,挨拶をし開始を宣言する姿は

大変に初々しく可愛らしい。


が,しかし!!王子さまなんて攻略対象候補の筆頭だ。

今後,お近づきになんてなりたくない相手No.1だ!!


自分の役目の,挨拶と少しの談笑を終えたら,さっさと次の子供に譲り

はしを目指してそそくさと移動する。


立食形式のガーデンパーティーの様なしつらえだが,一角には座ってくつろげるテーブル席もあり,そこを目指して当たり障りない挨拶を交わしながら移動する。


知識チートや内政無双ができず,魔法関係での才能もない。

どこまで行っても『普通の人』の域を出れなかったわたしに残された唯一の道。


ひたすらの『大人しい良い子ちゃん』でいること。



この世界の貴族は,幼いうちからの婚約は基本はしない。


『魔力量』はある程度生まれで決まるが,鍛錬次第では増加する。

増えた分は潜在能力とされ,

貴賤問わず,結婚相手や雇用の際に加点評価されるポイントだ。


特に貴族どうしの婚姻では,魔力は様々な恩恵をもたらすので無視できない。

なので鍛えてどうとでもなる余地のある子供時の婚約は,あまり推奨されていない。


もっとも,貴族には貞節や義理も大事とされているので,学生時代の恋人とはそのまま婚約するケースが多い。

学生時の努力や評判では『不許可』されたりするが,余程の不真面目かアホでもなければ,たいがいそのまま婚約か結婚をする。


この様に『婚約者が,突然現れたヒロインに嫉妬して嫌がらせ』のテンプレが発生しにくい土壌とはいえ油断はできない。


子供のうちからの婚約が珍しいだけで,決してない訳ではないのだ。


現に,同じ歳の貴族の子供たちが集まっているこの会場内では


『俺たちもう親友』や『可愛いあの子に一目惚れ』や『あの2人なら誰が格好良い??』なんて現象が発生している,子供同士の大規模お見合い婚活会場だ!!


そんな場所で,『悪役令嬢』や『ヒロインのライバル』キャラを避けるなら

大人しいご令嬢と言う『量産型貴族令嬢モブ』として埋没する他ない。


と言うか,正直な話…もうこれくらいしか対策が思い浮かばなかった。


凡人のアラフォーが転生したところで,打てる対策なんてこの程度。

あぁ,本当に何のために生まれ生きているのか…。


ようやく人の群れから抜け出して,真っ白なパラソルの席につけば

すかさず給仕の人お茶を入れ始め,お菓子を持ってきてくれる。


会話が苦手で,人が苦手で隅っこでお茶を飲むしか時間潰しがない

退屈で平凡な令嬢の図,完成でございます。


面白くなさそうな顔でお茶を啜り,ケーキを突く姿に

誰もが敬遠して近づきもしないだろう。


これがアラフォーぼっちおとなの処世術ってやつよ!!


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