第42話

3人は緑丘駅に着いた。

受験会場の西城高校がある八幡駅までは電車で20分程かかる。

そこから受験会場までは歩いて15分程だ。

電車の待ち時間を考えても、受付終了時間には十分に間に合う。


「英、何度もあくびをしているってことは、寝不足なんじゃないの?」

「あくびっていうのは緊張しているときにも出るもんなんだよ。俺にとっては今日が一世一代の大勝負なんだ。受かって当り前のお前や、落ちてもどうってことない徹也と一緒にするんじゃねえ。」

「ということはちゃんと寝たんだな?」

「寝たよ。なかなか眠れなかったけど。」

「何時間くらい眠ったんだ?」

英が俯いた。

「・・・実は4時間くらいなんだ。寝ころんだのは早かったんだけど、なかなか寝付けなくて眠ったのはおそらく2時半すぎだな。」

「おいおい、大丈夫かよ。」

「コーヒー飲んできた。」

「それで最後までもてばいいけど。」

「休憩時間にも飲むよ、ほら。」

英は切符発券機の前で鞄を開けて、和人と徹也に中身を見せた。

缶コーヒーが3本入っている。

「そういうところはちゃっかりしてるんだよな。え~と、切符は250円分買えばいいんだな?」

徹也は財布を取り出し、発券機にお金を入れた。

「250円ね、え~と財布、財布・・・。」

英が財布をズボンのポケットから出そうとしたとき、鞄が肩から外れて床に落ちた。

ガチャン、コロコロ・・・。

缶コーヒーが床に散らばる音だ。

英が鞄を閉めていなかったために、缶コーヒーが2個、鞄から飛び出し床を転がってしまった。

「わっ、やべえ!和人そっちのを取ってくれ。」

英は真下に落ちているのを取ろうとしたが、販売機の前は人だかりができていたため、缶コーヒーは何人かの足に当たり3メートルほど離れた所まで転がった。

「ちくしょう、だせえ。」

言いながら英は小走りに移動して缶コーヒーを拾った。

和人もあわててもう一本を拾う。

「ほらよ、英。同じ学校のやつに見られなくてよかったな。」

和人が英に缶コーヒーを渡す。

「まったくだ。早く来たのが幸いしたぜ。」

英は缶コーヒーを受け取り鞄に入れると、今度はすぐに閉めた。

徹也はすでに切符を買い、改札の方で待っている。

「徹也のやつ、他人のふりをしているぜ。友達がいのない奴だな。」

「いいから急ごう、英。」

改札を通った3人は満員の電車に乗り込んだ。


「はあ~、受験前だというのに疲れちまったなあ。」

約20分間満員電車に揺られた後、3人は八幡駅から受験会場へと向かっていた。

受験会場ヘは後3分程で着く。

「でもまあ、かえって眠くならないでよかったじゃないか。」

「さすがポジティブ和人君、言うことが違うねえ。」

「からまない、からまない。ところで今さらだけど英、忘れ物はしてないよな。」

徹也がふと気になったことを聞いた。

「当たり前だろ、さっきも言ったように一世一代の大勝負なんだ。何回も点検したよ。」

英は歩きながら鞄を開けた。

「筆記用具に受験票、筆記用具に・・・。あれ、そんな、受験票が・・・。」

英の声がか細くなった。

顔も見る見るうちに真っ青になっている。

「まさかテレビドラマじゃあるまいし、受験票がないなんて言わないよな?」

徹也が英の顔を見つめた。

「・・・ない。受験票が、本当にない・・・」

英が茫然自失の表情でつぶやいた。

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