第4話 新しいチャレンジ
工場で働く従業員も次第に自信を深め、見違えるように変わっていった。
協力してコストダウン活動を推進し、さらに受注活動にも力を入れることにした。
私は、毎月開かれる営業会議にオブザーバーとして出席し、工場への不満や要望を聞いて回ることにした。
そうすると東北の営業の人達は、秋田工場が変わっていくことをとても喜んでくれ、応援してくれた。
一方で関東圏にある群馬工場への不満を語り始めた。それは私がかつて勤めていた工場であり、とても耳の痛い話であった。
群馬工場のような大規模工場は、関東圏の大きなPJ工事を優先して、東北の仕事を後回しにするので、いつも納期で苦労をさせられるというものである。
彼らの言い分は、とても良くわかった。東京や神奈川の大きなPJ工事が入って来ると、どうしてもそちらを優先してしまう。物量が多い為に、それらを中心にして工場計画を立てないと、工場は円滑に運営出来ないのだ。
「わかりました」と支店長をはじめ営業の皆さんに伝えて会議を後にした。
しかし、私はどちらの事情もわかっているので、正直対策の難しいことは良くわかっていた。
とりあえず直ぐに群馬工場長に電話をして、事情を話して協力をお願いした。しかし、それだけでは難しいことは良くわかっていた。
ハブ工場とサテライト工場。
空港の連携のように出来ないものかと考え始めていた。
札幌、羽田、名古屋、関西、福岡等のハブ空港と、それらを取り巻く地方のサテライト空港との連携のように、それぞれの持ち味を活かして連携をさせよう。
ハブ工場は規模に応じた大容量の生産を行なう。大型の機械設備や協力会社や大量の人員によってフル稼働させる。一方大型工場は小回りが効かない。融通が利かないのである。
そういった部分は、小回りの利くサテライト工場の秋田工場がやれば良い。
大型PJ工事は、これらハブ工場を使わないと生産キャパが間に合わない。しかし秋田工場ならば小ロットや急ぎ分への対応は可能な筈である。とりあえず緊急分を納めた後に群馬工場にまかせれば良い。
私は以前からもそう思ってはいたが、なかなかその第一歩が踏み出せなかった。それは秋田工場で、また新たな仕事を引き受けるからである。
いわゆる新たな建材商品への対応である。
工場図面から始まって、製品作り、資材の調達部品まで従来とは変わって来る。
私はまたみんなに協力をお願いした。
「今のままでは未だ出荷金額が足りない。
そして、みんなも良く知っている東北の営業の人達がこんな苦労をしているのだ。
どうだろう、協力をして貰えないだろうか」
文字通り私は、熱くなって語らない訳にはいかなかった。
新たに設計者をリクルートし、私も一緒に教えた。設計は私の得意とするところである。
もっとも間違いは相変わらず多い。そのことは返ってスタッフ達にプレッシャーを掛けないし、彼らのチャレンジ精神を呼び起こした。
資材の担当者には、ハブ工場の群馬工場に勉強に行って貰い、カンバン方式を持ってきてもらった。
少々不安はあったのだが、こんな楽で正確に在庫管理が出来るのならば、もっと早く教えて貰えば良かったと、とても喜んでくれた。
正直何が上手くいくのか、自分でもわからなくなっていた。
ただ言えることは、こうしてみんなが積極的になれるのも、少しずつ自信がついてきたおかげである。
そうやって徐々に建材の急ぎ分の対応が出来るようになってきた。
営業の人達は秋田工場のこうした取り組みを無条件に喜んでくれた。
スタートした当初は苦情に泣き、本当に辛い思いをした。品質以前だとか、こんなだったら〇〇よりひどいと何度もダメだしをされた。
私も何度も謝りに行き、手直しにも同行した。岩手や青森、山形に仙台、東北地方の広いこと。隣の件に行くのに何時間も車を走らせなければならない。
それがどうだろう。半年も経つとすっかり評判が変わっていった。
品質面では、苦情が発生する度に、原因追求と是正を実施した。さらに全員で泥臭い改善活動も始めた。正直に言うと手直しの辛さが、品質の向上につながっていったのだ。
東北の営業の人達も納期への苦しみが減り、受注活動に専念することが出来るようになった。その声を毎月の営業会議の中で聴かせて貰うととても嬉しくなった。
彼らも受注を増やすことが出来、工場も出荷額を増加させることが出来て、ウィンウィンの関係が築けたのだ。
こうした状況の中で嬉しいことがふたつあった。
ひとつはかつてリストラで工場を去った外注管理のベテランが工場へ戻って来てくれることになったのだ。これは東北の事業部長が、工場をさらに充実させて貰いたいとの計らいであった。
我々は、とてもありがたく思うと同時に嬉しく思った。
もう一つは、新潟支店からのラブコールであった。新潟支店は、本来ならば別の管轄であったが、東北と同じように納期で苦しんでいるという。ぜひ新潟分も秋田工場で対応して貰いたいとの熱い要請であった。
それは我々にとっても、とても嬉しかった。願ってもないことである。
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