第26集
「あ、あの、皆さん…?」
「お方様が戦場に出られるなら、私たちも戦います!連れて行ってくださいませ!」
代表者は隣村である
「ふゆ、あなたまで」
「いとこがお供できない以上、私が行くしかないです!」
法師は困った。良い年の未亡人はまだ良いのかもしれないが、嫁入り前の娘も少なくない。彼女らに怪我でもさせたら、取り返しが済まないのだ。
「とでも考えているんでしょう?お方様に万一があるのが一番、取り返しが済まないのを理解してますか!?」
もっともな言い分ではある。まだ契ってもいない中、他の男に襲われでもしたら、とは思う。しかし…
「良いではないか。皆がいてくれた方が、某は安心できる」
困って相談した季房は受け入れもやぶさかではないと。その訳としては、
「だってなあ。法師が来るなら五郎や六郎、甚助を付けねば安心できぬ。しかし、あ奴らはもっと別のことに使いたいからなあ」
「う…!」
五郎六郎はそろそろ、護衛以外にも組頭なり物見なりに使いたい。甚助も優秀な先導役だ。
「正直、女ばかりでまとまってもらえた方がやりやすいのだ。村の男たちからすれば守る対象であるしな?」
「ぐう」
それ以上はぐうの音も出なくなった法師は、しぶしぶながらも20人の女人衆を傍に置くことを認めた。
退助を旗頭に先発させた村からは、60人ほどが出ている。残りの16か村から320人と女人衆で340人。都合、400人が佐用半郡から出征する戦力だった。
「しかし、もっと出せますが…」
「良いのだ。初めての軍役が重くては、今後も尻込みしよう」
西では、やっと兵糧難を解決しつつある三河守範頼の征討軍が九州へ渡海するとかしないとか。早くたどり着くためになるべく小さい手勢でさっさと始動したかった。
「さて、行くか」
そうして進み出した佐用軍は山陽道に出て、そこからは道なりにそう長くは無い。既に征討軍がある程度平らげているので、野盗の類を見かけたが逃げ切られては仕方ない。
「むう、どうにかしてやりたいが」
「ならば、人を遣って警戒を呼び掛けては」
「そうするしかないかのお」
4人ほどを割き、近隣の村に走らせた。そうしている内にも、備前国から備後、安芸へと進んでいく。厳島を望んで山を越えれば周防国。
「やって来たな。しかし、気になる情報が来たものよなあ」
「然り。九郎…いえ、伊予守どのに出陣の動きありとは」
季房たちが出立するのと時を同じくして伊予守義経が範頼に向けた使者と同道していた。使者は
「そうなんだよ!いよいよ、九郎様も出陣だよ!いやあ、参ったな!」
「なんというか、陸奥国の方の言葉は初めて聞いたが、やはり違うなあ」
これでも、一般的な奥州では丁寧な言葉遣いらしい。
「話によると、九州の…隼人の地も何やらとんでもない言葉を話す者どもがいるとか」
「あー、一度話したごどがあるんだども、何言ってらがわがんながったよ!薩摩者、とか言っでた!」
「薩摩国か。九州の一番南、その先は島国の大隅、琉球とか言う国があるとか無いとか」
「く、詳しいですな」
「父親が公卿であるからなあ」
季房は風土記が好きで、よく読んでいたらしい。
「風土記はおもしぇだよねえ!おらも好ぎだよ!」
「奥州、少なくとも平泉は文化が進んでいると聞いたが」
「都で読む書物も当たり前にあると」
「んだんだ」
訛りで何を言っているのか聞き取りにくい時もあるが、この男は非常に教養があるのかもしれない、と見直した主従であった。
「おお、少将殿!助かったぞ!」
「参州殿、どうだな、状況は?」
1月も末が近づいてきたころ、季房の佐用軍は渡海直前の範頼に追いついた。
「うむ、豊後の緒方という男が迎えると言う。舟も用意できた。いつでも渡れるぞ」
「そうか。某の佐用の兵は400ほどおる。旗本としてでも使ってくれ」
「そうだったな。官職に加え、土地ももらったと。めでたいな!」
「そうだな。頂いた以上は、お役に立たねばならぬ」
季房の意気込みも、実は高い。
「ははは、その通りだ。しかし、そなたがいなくなった後、大変だったぞ」
兵糧不足は元より、侍所別当の和田小太郎を筆頭に、無断帰還を企む者が続出し、その対応にも苦慮したらしい。
「和田殿か。帰りたがる…だろうなあ」
「全く、あの御仁も少しは立場を弁えてほしいものだ。宥めすかして、俺の飯も削って回してようやくだ」
「大変だったなあ」
「そなたが鎌倉の兄に訴えてくれたおかげだ。かたじけない。礼を言うぞ」
「とんでもない」
翌日、第一陣が豊後に向けて海を渡って行った。
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