第3話 ちょ、ここ学校

 朝、いつも事務的にやってくる地獄みたいなもんだ。慣れれば気にも止めなくなる。いつも通りの朝のこの学校の雰囲気、僕は嫌いじゃない。

 周りの雑多が生活感を際立ててくれて、嗚呼、平和だな、と感じさせてくれる。


「なぁなぁ晴人、聞いてるのか?」


 故に僕はダル絡みというのは苦手である。


「朝からお前もしつこいな………京介きょうすけ。」


「いいじゃんか。友達だろう?で、さっきの話の続きなんだけどな―――。」


「あぁ、隣のクラスの神田かんださんのことだろう?お前、そんなに好きならいい加減告ったらどうなんだ?僕もそろそろ飽きてきたんだ。話に進展がないなら告ってから出直してこい。」


「うぅ………晴人も結構言うようになったじゃねーか………最初とは大違いだぜ。まぁでも、今の言葉、そっくりそのまま返させてもらう。」


「ん?どういうこと?」


「知ってるぞ?お前が天里さんのことが好きってことくらい。」


「まぁそんなの、見てたらわかるだろうな。察しの通り僕はシノのことが好きだぞ。」


「………結構そういうのオープンなのな。本人に聞かれたらとか思わないのか?」


「もうお互い知ってることだから、もはやなんにも。今更恥ずかしがる方が難しい。」


 本人の前となると話が違うのは秘密である。


「まぁ………そうだよな。俺も初めてお前と天里さんにあったときびっくりしたのを覚えてるよ。良くもまぁあんな可愛い人と一緒に、それも平然とした顔で登校してきたなって。感心の領域だった。」


「今まで、それが普通だったからだよ。あ、言っておくと付き合ってはないぞ?」


「それはそれでなんでなんだ?」


「うーん………色々あってな。」


 僕は言えんぞ?昨日の昼休憩のことなんて。それだったらノブさんの性癖晒す選択肢を選ぶ。もっとも、彼の尊厳のためそんな事は言わないが。


「なんだ、お前も恥ずかしいんじゃないか。」


 さて、図星だが僕にも言い分がある。ただ、言えない。言ったらどうなるか分かったもんじゃない。


「諸事情ってやつだ。恥ずかしいわけじゃない。」


 結構危なげな思考を持ってらっしゃるからな。ちょっと怖くはある。ただ、嫌って訳じゃない。思い出補正である。


「ハル、どうしたの?」


 最悪なタイミングってこういうことを言うんだな。


「あぁ、天里さん。ちょうど天里さんのこと話してたんだよ。」


 京介は後でシメるとして、さて、困ったな。


「あぁハル、昨日のこと?」


「まぁ、そんなところだな。」


 さてさて、余裕な感じを醸し出しているがこれでも僕は内心焦っている。顔には出にくいタイプだから、京介には悟られてないだろう。


「ん?昨日なんかあったのか?」


 はーい、食らいついてはいけないところに食らいつきおったな。本当………こういう話は人前じゃしたくないのに。逆にシノだからいいんだよ。


「昨日ハルと好きなタイプについて話しててね、まぁできれば………独占したいな?的な?」


「本当………なんでお前ら2人付き合わないんだよ………。」


「付き合ったら、私が管理してあげるからさ。ハル。」


「………京介、今ので粗方わかったろ。僕たちが付き合ってない理由だ。」


「………なるほどヤンデレ。」


 当の本人はなにか不思議なこと言った?と言うふうに首を傾げているのがまたなんとも………。大切な人を管理したいと言う気持ちは分からんでもないんだが………流石に僕も抵抗がある。


「いいじゃん。私だよ?」


「まぁ、シノだから信頼してるってのはある。だから………なんて言うかシノも僕を信頼してほしいんだよな。強引な形じゃなくてさ。」


「………信頼してるし、わかってると思うけど私もそこまで本気じゃない。でもさ………やっぱり怖いから。」


 まぁ………そりゃあそうだよな。当たり前が当たり前じゃなくなるのは誰だって、勿論僕だって怖い。シノの言いたいことは、大方解る。


「だからさ―――――。」


 そこからの言葉は、僕の予想の範疇外の言葉であった。


「今ここで、行動で示してほしい。私から離れないって。だからさ………キスして?」


 ちょ、ここ学校。って言うか朝だし。と言うか皆居るし、京介見てるし。


「私のこと好きなら、そのくらい出来るよね………?」


 あぁ、こやつマジや。

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