第10話 聖side雪の驚くべき話

秋良の部屋で聞いた雪の話は、しばらくぼんやりしてしまうほど衝撃的な話だった。雪が発情期に対して随分腰がひけてるなとは思ってはいたけど、まさかトラウマを抱えていたなんて。


俺にも兄弟は居るけど、まさか弟が俺の発情期でトラウマ発症とかしてないだろうな。いや、あいつは大丈夫だ。狼系の弟は俺の発情期の後でニヤニヤして揶揄ってきたし、何なら自分の発情期の後でハーレム作って高笑いだしな。


「なぁ、発情期って予想した様にくるわけじゃ無いぞ。お前は準備しておくって言うけど。」



俺がそう言うと、雪は綺麗な顔をふんわりさせて微笑むと言った。


「普通はね。俺は薬でギリギリまで抑え込んでるから、ドクター曰く薬やめたら2日で発情期始まるってさ。ピルかよって感じだよ。」


椿がピルって何って聞いてたけど、雪はニヤっと笑うと何でもないって誤魔化した。こいつは会った時から色々秘密めいた所があって、このトラウマ云々のカミングアウトもそのひとつなんだけどな。俺はさっき雪の言った最後のセリフに引っ掛かった。そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいだ。


「ねぇ、ゆきちゃんは自分がどっちの性癖なのか分からない?」



そう聞いた椿の顔は獲物を追い詰めた猛獣の顔で。でも雪はキョトンとすると、何を聞かれたか分からない顔をした。


そっか、雪は発情期が来てないし、元々違和感を感じてるくらいに、この手の事に疎いから自分の性癖が分からないのか。俺たちにだって雪の発する微量のフェロモンから分かるってのに。


「…どっちって?俺は男だから女の子に突っ込むんじゃないかなと思うけど、あんまりその気にならないのは本当。でも発情期来てないからかなって。…だって俺、自慰だってした事ないし。」



最後は少し恥ずかしいのか顔を逸らして小さい声になったけれど、俺は聞き逃さなかった。多分他の奴らも。だって空気がビリビリって変わったから。


俺たち猛獣系は支配層だけあって、色々他に影響を与える事が出来るんだ。それはお互いに感じとれるけれど、なぜか雪には昔から全く通じない…。今も感じてないよ、俺たちのフェロモン。


俺が口の中に溜まる唾液を飲み込んでいると、さっきから黙っていた秋良が言った。



「雪、教えてやろうか。お前の性癖。」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る