第20話
婚姻届を持って家に戻った、と言ってもまさ子が住んでいたアパートにシバが荷物を置いてたまに帰ってきてくつろぐだけの場所だ。一応家賃は半分ほど払っているらしいが。
「相変わらず綺麗にしてる……えっ」
シバは今まで見たことがなかった物が部屋の隅に置いてあることに気づきた。
「べ、ベビーベッド?!」
他にもベビーダンス、哺乳瓶、粉ミルクの缶。タンスを開けるとベビー服、肌着。
「ここって俺の服が置いてあったんじゃ?」
2dkなのだが寝室を覗き、もう一部屋の方に向かうとごっそりシバが置いておいた荷物が。
「マジかよ、まぁここは俺の部屋ってことだよな、ん? なんだこの包み」
荷物の一部に大きな包みが二つ。可愛い柄である。無造作に破くと白い箱。
「なんだこりゃ」
包装紙を取ると熨斗があり、そこには
『快気祝い 警視庁 冬月シバと仲良しガールズ一同より』
と書いてあったのだ。慌ててシバはその熨斗を破り捨てた。内熨斗であるから見られてはいないだろう……とシバはホッとするがその中身を恐る恐る開けてみた。
「ああああっ!!!」
なんとその中には大人のおもちゃのいわゆる自分で自分を慰めるグッズがぎっしり詰まったセットであった。
『シバさん、退院おめでとうございます。しばらくは子育てで忙しいと思うのでこれで発散してくださいね。もしそれでも、というならいつでもお待ちしてます!』
というメッセージ付きである。
シバは頭を抱えた。確かにしばらくはまさ子とはできないし、子育てでほぼ自分達しかいないから容易に外に出られない。ましてや警察も辞める方向になっており仕事の合間に仲良しガールズと称された彼女たちとも致すこともできない。
すると目の前に同じようなサイズ感の箱がもう一つ。まさかと思ってシバは勢いよく開けると同じく熨斗が付いていてそこには
『快気祝い 冬月シバにNTRされた被害者の会』
と書いてある。
「は? NTR? なんだ、被害者の会……何された被害者の会なんだ? 俺は何をしたんだ」
と思いつつも箱を開けると冬月シバと仲良しガールズの仲間の快気祝いと同じであった。
ため息をつくと電話が入る。父親だ。父はまさ子の担当ではなかったが何かあったのかとすぐさま電話に出ると
『退院おめでとうな。今家か、まさ子ちゃんの』
といつもの調子で明るい声だった。
「俺の家でもあるぞ! てか、なんか赤ちゃん用品多くなってたし、それにこの快気祝いとかさ」
『何を言う、ただの居候。母さんと父さんとまさ子ちゃんで揃えて運んだんだよ。まさ子ちゃんの親さんからも前祝いでベビーカーもあるし。あ、その快気祝いは退院すると分かってから家に届いたから置いておいたがちゃんと出産祝いのお返しと別でシバが用意しなさい』
「えー、一緒じゃなきゃダメ?」
『何を言う! それに出産祝いのお返し……内祝いはこっちで候補決めたから送る人のリストを用意……あ、警察の方にまとめて送ればいいか……とにかくまさ子ちゃんの負担にならないように!』
「は、はぁい」
シバはため息をついて電話を切った。
するとメールが一件きていた。茜部である。
「おうおう、茜部ぇ。あいつにゃー連絡したかったんだよ」
メールを見ると
『退院おめでとうございます!今現場から戻ってきましたので電話ください』
とのこと。本当は会って話したさそうなシバ。だがすかさずすぐ電話した。
「おう、茜部。メールありがとうな。今どこにおる。お前も大変だったな」
『シバさん……ありがとうございます! 僕はもう大丈夫です。筋トレも始めましたし。現場ではもう相変わらずこき使われてますのでいつも通りです! あ、その今は外に出られなくて』
とても明るそうな声の茜部。シバはホッとする。爆発した時に自分の後ろにいたはずだと心配をしていた。
「出られんのか。だったら俺が今そっちに行くけどさ、どうだ?」
『……その、えーとですね』
「あーわかった。帆奈とイチャイチャしとるってか? もうやったか?」
とシバは言った後に、あっと思った。今日だけでも自分と関係を持った女たちの変化がいくつかあったことを。
『まぁ、そうなんすけどねぇ……あの、ええ……』
「どーしたんだ? まさか行為中だったか? すまんなぁ」
『あ、あのう!! 僕たち結婚するっす!』
「やっぱり……」
『で、子供生まれるっす!!!』
「やっぱりぃいいい?」
シバは項垂れた。
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