第四章

第52話

 それぞれの夏の始まり。


 山本はくれないの祖父、中臣なかとみ弘道こうどうの元で修行、四之宮は、夏休み明けからの授業に間に合うように、夏季の特別講習が始まった。


「あ~。つまらないわ」

 紅がぼやいた。今日は四之宮が可愛い制服を初めて着て見せてくれたが、朝食を取ると、さっそく学校へと出かけた。四之宮のいない一日の始まりだ。

 そして、榊も四之宮のお供として一日いないのだ。この屋敷に残ったのは、如月きさらぎと上原弟のみのるだけだった。

「紅様。そろそろお支度を」

 如月が言った。これはいつも榊の役目である。

「分かっているわ」

 紅はいつもの仕事着である、白衣びゃくえ緋袴ひばかまに着替える。


 午前のお勤めを難なくこなし、昼食は榊がいないため、シェフを呼んでいた。


 普段、榊がいると、使用人は主人と共に食事をしてはならないというのを、頑なに守っているが、今日は如月と実も一緒に昼食をとった。

「やっぱり、みんなで食べると美味しいわ」

 紅は如月と共に食事が出来て喜んでいた。

「午後のお勤めが終わったら、如月も一緒にお茶しましょうよ」

 と如月をお茶に誘ったが、それはあっさりと断られた。榊がいない間、彼の仕事を担っていて忙しいと。実もその手伝いで忙しいようだった。


 昼下がり、紅はお茶の相手をする者もなく、暇を持て余していた。そんな時、四之宮が榊と共に帰って来た。

「りっちゃん! お帰り~」

 紅が大喜びで四之宮を出迎えた。

「ただいま戻りました」

 榊の言葉はあっさりスルーされた。

「さあ、りっちゃん、疲れたでしょう? 一緒にお茶でもどう? 今一人で飲んでいたところよ。シェフ、りっちゃんにもお茶を入れてちょうだい」

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