17:エピローグ

幸せの向こう側へ

 月日は流れ、18歳の夏。


 レーヴェ様と正式に婚約をして1年が経った。アカデミー生活にも慣れてきて、卒業と共に籍を入れることも決まっている。


 レーヴェ様のお父様お母様、クラリスさんをはじめとするご兄弟たちとも仲良くなってきた気がするわ。特に、レーヴェ様のお父様お母様は、私だけじゃなくてソフィーのことも子どものように可愛がってくれるのよ。週1で、お夕飯にも誘ってくれるし。



 本当のお父様お母様とは、あれから縁を切った。


 獄中に居る間も反省の色がないとかで、陛下自らの決定によって遠くの鉱山へ労働者として送られたとか。不思議と、私もソフィーも心が痛まなかった。それよりも、アカデミーで学ぶことが多すぎて頭がそこまでいかないって言った方が正解かも。


 お屋敷に帰っても、お店を始めたマジョー奥様のお手伝いで忙しいし、本当に今の今まで両親の「り」の字も忘れてたわ。



 とにかく、私もソフィーも元気いっぱい。


 今は、ベルナールの看板を背負って姉妹揃って奮闘する毎日を送っている。……送っているのだけど。



「……ソフィー嬢」


「なんでしょうか、お義兄様」


「どうして、ここに居る?」


「さあ、偶然ですわ」


「嘘だ! 今日は、俺がステラと過ごす日なのに!」


「では、私のことは空気だと思ってくださいな。そうすれば、万事解決」


「解決じゃない、大問題だろ!」


「じゃあ、お兄様は私とデートに行きましょう。そうすれば、お兄様と私、ステラさんとソフィーさんで丸く収まるのではなくって?」


「それは良い考えですわ、クラリスさん!」


「というか、どうせなら女子会しません?」


「お前は出てくるなって! 話がややこしくなるだろ」


「あ、あの、3人とも、そのくらいにして……」



 本当、休みの日が来る度にこの光景が繰り返されるの! どうにかして!



 クラリスさんが、なぜかアカデミーの事務で働き始めたのよね。侯爵のご息女が? って思うでしょう? 私も大いに思ったわ。でも、聞いたらいけないような雰囲気だったから止めたの。


 ソフィーがレーヴェ様とラファエル様、ルワール様に謝罪をしに行った時に「じゃあ、アカデミーの事務で働く!」って急に言い出したらしい。……ほんと、なんで?



 今日も、アカデミーの敷地にある噴水前でレーヴェ様を待っていたのだけど……なぜか、ソフィーとクラリスさんも居た。


 今日の予定は教えてないんだけどな。と思ってその奥の建物の入り口を見ると、私に向かって手を合わせて謝罪をするマリアンの姿が。きっと、彼女が2人に教えたのね。



「最近、ステラとの時間が少ない……」


「レーヴェ様は、お仕事が大変ですものね。またヘルプでいつでも呼んでくださいな」


「ダメよ、ステラさん。お兄様ったら、貴女が行けば鼻の下伸ばして仕事になりませんもの」


「そうよ、お姉様。メアリー嬢が言っていましたもの、「ステラ嬢が近くに居ると、レオンハルト様がソワソワし出すからシャッターチャンス」って」


「なっ、そ、そんなことは」



 そうそう。


 アカデミー卒業してからってなっていた爵位譲渡が繰り上がって、私は今「子爵」の爵位を頂戴しているの。男爵かと思ったのに、まさかの子爵! びっくりしたわ。


 だから、アカデミーの合間をぬって、たまに王宮でお仕事をしている。最近はずっと、騎士団の事務関係をこなして国の内情や今後管理のお手伝いをする領地について学ばせていただいているわ。


 ラファエル様が相変わらずで、お仕事を溜めてしまうのですって。私がいると進みが早いって言われていたけど、まさか邪魔をしてたなんて申し訳なさすぎる。



 チラッとレーヴェ様の方を向くと、お顔を真っ赤にしてプルプルしてるじゃないの。


 ここ1年で彼のいろんな表情をみてきたけど、この表情が一番好き。なんだか、小動物のように見えるでしょう?



「レーヴェ様? お邪魔でしたら、お手伝いをお控えいたします」


「邪魔じゃないです! 大丈夫です! 仕事はちゃんとやってますから!」


「あ、はい……」


「なんですか、その目は! 疑わないでください!」


「お兄様、お顔がりんごですわ!」


「本当、熟してて美味しそう」


「でも、お肉の色で例えたらもう少し焼いた方が良いかもしれないですね」


「……」


「……」


「……」



 しまった。


 食い意地が出てきてしまったわ。



 最近、異術の練習をしているからかとてもお腹が減るのよね。他の異術者に言ったら「そんなことないけど」って言われたからきっと、支援型の私だけの現象なのかも。


 だから、私が食い意地張ってるわけじゃない。3人とも、そんな顔してこっち見ないで!



「ステラ、お腹が空いてるんですか?」


「……ちょっとだけ」


「では、先に食事へ行きましょう。後ろの2人を置いて!」


「お兄様、抜け駆けはダメです! 私もステ……お兄様とお食事したいですわ!」


「お姉様! お肉はゆっくり召し上がらないと、また喉に詰まらせるから気をつけてね!」


「あ! ソフィー、その話はやめて!」


「なんだそれ、聞いてない。ソフィー嬢、詳しく」



 でも、とにかく楽しい。


 数年前、死にかけた私からずいぶん賑やかになったわ。



 幸せって、こういうのを言うのでしょうね。


 その分岐点は、紛れもなく彼、レーヴェ様と出会った時。本当、感謝しても仕切れないわ。幸せだけじゃなくって、ソフィーとこうしてまたお話ができるようになったのも彼のおかげだし。




 レーヴェ様。


 私は、一生かけて貴方を愛し続けます。


 たくさん迷ってご迷惑をおかけした分、これからはたくさん恩返しをさせてくださいね。



 まずは、そう……。


 どうやったら、2人きりでゆっくり食事ができるのかを考えましょうか。

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