久しぶりの外だったから


「ステラ嬢は、なぜあんなお痩せになってるんだ?」


「栄養が足りてないのでしょう。貧血の症状がありましたから」


「あーあ、レーヴェが長い時間立たせておくから」


「……ずっと探してた彼女が目の前に居て、浮かれてしまってたんだ。申し訳ないことをしたよ」


「でもさー、あんな盛大なパーティーを開催できるベルナール伯爵なのに、なんで栄養が足りてない子が居るの? しかも、長女でしょ? おかしくない?」


「それに、身体に巻いてたサラシの意味はなんだ? あんなの、呼吸の妨げになるだろう。意味がわからない」


「好意を向けられるのに慣れてない印象も気になるね」



 頭がふわふわと心地良いわ。


 ここはどこかしら?



 誰かの会話がボヤッと耳に届いたため、私は目を覚ました。……ってことは、眠っていたのね。周囲を見渡すと、薄いカーテンに仕切られた空間が見えた。


 完全に、自室じゃないわ。そもそも、こんなフカフカしたベッドで横になるなんて久しぶりすぎるもの。


 私は、ボーッとした頭で上半身を起こした。なんだか、呼吸がいつもよりしやすい。……ん? 深呼吸もでき……。



「キャッ!?」


「!?」


「!?」


「!? ステラ嬢! 目が覚めイテッ!」


「はいはい、男性は入ってこない」



 不思議に思って下を向くと、見たことのない肌着が見えた。それに、いつもはサラシをキツく巻いて隠している胸がそのままになってるわ。


 私は、ソフィーより胸が大きいの。それが、お母様から見たら嫌みたいでね。サラシで隠すようにしたら、ちょっとだけ機嫌が直ったからこうしてる。早く巻かなきゃ。これ以上、お母様に嫌われたくない。



 私が声を上げると、カーテンの向こう側で動いていたものがこちらにやってきた。


 白衣に包まれた女性1人だけ来たけど、もう少し居る気がする。……今の、パシッて音はなんだったのかしら?



「ステラさんで合ってる?」


「は、はい……」


「私は、ルワール。医者よ。具合はどう? 苦しいところとか、痛むところとかない? ああ、服は私が脱がしたから。ごめんなさいね」


「ありがとうございます……。頭がフワフワするだけで、痛みとかはないです」


「そ。受け答えもしっかりしてるから、大丈夫そうね。カーテンの向こうに、貴女を運んできた人たちがいるけど……。その格好だと、会えない?」


「あ、はい。こんなみっともない身体を晒しているので……」


「そんなことないわ。細すぎて胸とのバランスおかしいけど、女性としてとても魅力的な身体付きよ。もっと、自信を持って」


「でも、巻かないとお母様が……」


「……今ここに、その人は居ませんよ。大丈夫です、堂々としていてください」


「は、はい……」



 ハキハキとした話し方をするルワール医師は、そう言いながら私に上着を貸してくれた。その布地がまた、高級品だとわかる触り心地で……汚したら申し訳ないわ。あまり触らないようにしましょう。



 それに、私を運んできたということは、どこかで倒れたとか? 記憶が曖昧で、考えてもその時のことが思い出せない。



「これで身体が隠れたよね。人を入れても良いかな?」


「あの、こういう時は立った方が良いのですか?」


「大丈夫よ。ここは、そういうの気にしないところだから」


「わかりました。では、お礼も言いたいのでお願いします」


「じゃあ、殿方2名! ご案内!」



 ルワール様は、私が胸元を服で隠すのを待って大きな声をあげた。



 殿方、2名……?


 なんだか、聞き覚えがあるわ。


 殿方、殿方……ああ、そうだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る